核融合+β

(top) (bkm)

2011.12.23 20:38 [Fri]
再改稿
今日も明日も

いつでも会える

それが『日常』で

『非日常』も

当たり前で――



『明るく笑って』



「……レッド、さん?」


帽子を深くかぶり、トキワの森で昼間から、うとうとしながら何も考えずに寝転がっていると、不意に遠くから声がした。
風が吹き、ざわざわと優しい木の葉の擦れる音が、トキワの森で深い音色を響かせる。俺はその楽団の真っ只中でも、聞きなれた声をしっかりと感じ取ることができた。

「イエロー、か?」

よっこいせと起きあがって振り向くと、そこにはスケッチブックを持った、輝く金色の髪をなびかせる少女が居た。まるで子供のように純粋で、どこか大人びた雰囲気を漂わせている日だまりのような笑顔を、こちらに向けている少女が。
よ、イエロー。
会釈のつもりで帽子を軽く持ち上げると、イエローはこちらにゆっくりと近づいてきた。

「何をしてるんです?」
「ん?あー……昼寝、かな」

ぼりぼりと頭を掻き、まだ寝てないけど、と付け足して苦笑する俺の姿を見て、イエローは朱に染まる頬を隠しながら隣によいしょと座り込んだ。
隠せてないからこうやって実況できているのだが、俺はあえて伝えることはしなかった。
ぽすん、と隣に小さく収まってしまう小柄なイエローは、彼女が足を崩して座るだけでもレッドと頭一つ分ほど身長に差があった。一つ下というだけなのに、やはり女の子というヤツはよくわからない。
彼女は馴染みの森を、青々と葉を茂らせて陽の光を遮る木々を仰いで、これまた優しげに微笑んだ。どこか昔を懐かしんでいるような、そんな視線だった。

「この森で昼寝すると、ついつい夜まで寝ちゃうんですよねー……」

撤回する。そんなことはなかった。
どうやら単純に過去の幸せに酔いしれていただけだったらしい……俺はさりげなくフォローを入れる。

「え。いや、それはイエローだけじゃないか?」
「……えっ……え、えぇ?」

同意を得られなかったことが恥ずかしかったのか。はたまた自分だけかもしれないと考えてしまって恥ずかしいのか。
とにかく先ほどよりもいっそう頬を赤くしながら、イエローは俯いてそんなばかな、だとか、だってぽかぽかしてるじゃないですか、などと呟き始めた。
ずいぶんと可愛い小声がぽんぽん漏れてくる。両の手の人差し指をつんつんと突き合わせながら、拗ねたように唇を尖らせて一人ごちるその姿を見てしまって、俺はグルン!と勢いよく余所を向いた。
熱をたたえ始めた鼻の頭を抑えながら、俺は自分の雰囲気を悟られまいと口を動かす。

「ま、まぁその辺りはイエローらしいっていうか」
「ど、どういう意味ですか!」

怒った。
それはもうぷんすかぴー!という擬音が聴こえてきそうな怒り方で、イエローはなんと頬まで小さく膨らませてくれた。
くっくっく、と自分の口から笑い声が漏れる。やめろ、俺の腹がもたん。
ただ、心から怒っているような様子は見受けられない。むしろ、その温かさにもっと触れていたい、とでも言いたそうであった。
今は甘えさせてやろうと、俺はすっと手を伸ばして、イエローの頭の上にのせた。そしてくしゃくしゃと、少しだけ強く、しかし優しさがしっかりと伝わるように頭を撫でてやった。
するとイエローは納得がいかないような顔をして、しかしだらしなく頬が緩んだ顔を垣間見せて、それから慌てたようにもとの膨れっ面に戻った。
可愛い。……よりも、結局面白さが勝ってしまった。再び俺が笑うと、イエローはまた怒ろうとして、しかし勢いはしぼんでいった。

「も、もういいです……それより」

イエローはため息にも取れそうなほど大きな息を吐いて、頬の空気を抜いた。
そしてまた、両の手の人差し指を付けたり離したりして、もじもじしながら隣の俺に話しかけてきた。
いや、実際そうだと思うのだが、彼女が俯いているから少しだけ不安になっただけである。

「あ、明日、一緒にタマムシデパートに行きませんか……?」
「え?」

イエローの頬が赤いのはこのマサラの暑さのせいだろうか、と空を見上げて現実から意識を逸らしつつ、俺は思った。ついでに両手を頭に当てて近くの木に寄りかかる。
俺は、そういえば最近この町から出てないなぁと、仮にもカントー最強であるはずの自分の、毎日のニートのような自堕落っぷりっを思い出して、それから陰鬱な気持ちになった。ああ、しにたい。
するとイエロー、俺の自虐に満ち溢れた表情を何と間違えたのか、声のトーンをどんどんと下げていく。おいまさか泣いたりしないよな?

「や、やっぱり駄目ですよね、レッドさんはレッドさんで忙しいだろうし……」

おいおい、そんなこと言うなよ。ジッサイハ、スルコト、ナインダヨ。ハハハ、はぁ。
行き場を無くした虚しさを、俺は声にも表情にも行動にもおくびにも出すことなく、くしゃくしゃと丸めて飲み込んだ。

「いや、別にいいけど?」

俺の返事は、自分でも驚くほど早かった。
ふえっ!?と頓狂な声を上げ、イエローは驚きの表情をみせてから数歩後退る。できれば逃げないで欲しかったのだが、というか自分から提案しておいてその反応はちょっと酷いんじゃなかろうか。

「……俺が行かない、って言うと思った?」
「正直に言っていいのでしたら、"はい"」

このやろうやっぱり俺はそういうキャラクターかよ!とかなんとか俺は叫んで、イエローの頭を右腕全体で締めあげる。実は骨で圧迫する形になるため、コレが結構痛いのだ。

「ちょっとちょっといたたたたっ、いたいですって、ばぁ!」

ごめんなさい!というイエローの実質的なギブアップ宣言を聞いてから、俺はようやくヘッドロックを解除してあげた。まったくもうよぅ、と続けて小言の一つでも言ってやろうとして、しかし。
れっどさんひどいです、潤んだ瞳のイエローが、頭を押さえながら上目遣いで、俺を責めるように言った。俺は今度こそ鼻血が出るんじゃないかと思った。鼻の頭をつまみながら。

「ぐす……、ふ、ふーんだ。レッドさんなんてもう知りませんからね!」

イエローはスケッチブックを後ろ手に持って立ち上がると、と目を閉じて、それはまあ可愛らしい舌をちろりと覗かせて、べー、と。
怒っているようなセリフを喋って、しかしそのあと、イエローは満面の笑みを浮かべて俺を見ていた。
それはまるで夏日に晒された、満開の向日葵のようだったという比喩は、きっと間違いじゃない。



「えへへ、ありがとうございますっ!」




『笑って、嬉しくて』


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