※10年後雲山※


「やあ山本、『Trick or treat ?』」
「………はい?」

扉を開けると、そこには愛しの恋人がいた。




「働きすぎだよ山本は。この際一週間くらい休めば?」

渋い顔したツナにそう言われたのは先日の話。「平気だよ」と笑って言った俺の言葉を却下して、半ば無理矢理休暇を出された。

「倒れたらどうするの」と今にも泣きそうな、心配そうな表情を浮かべられたら…俺は承諾せざるを得なかった。

親友の心遣いを申し訳なくも有り難く受け取り、俺はこの数日自宅で今までにないくらいのんびりとした日々を過ごしていた。
…の、だが。



「…なんでヒバリが此処に…?」
「…君のボスから連絡があったんだ。君に暫く休暇を与えたってね。良かったら会いに行って下さいと言われた」
「ツナが?」
「そう。驚いたよ。風紀財団に連絡してきたから仕事の話かと思えば、そんな公私混同な連絡寄越すなんてね」
「あ、違うって、それは俺が悪いんだ」

俺はうなだれた。ツナは公私混同するような真似は滅多にしない。それなのにこんな事態を起こしたのは紛れもなく自分のせいだ。

「?どういうこと?」
「…えーと、とりあえず中、入るか?」

俺はヒバリを部屋の中に招いた。


温かい紅茶を煎れ、ヒバリの前に差し出した。彼はそれを一口飲んでから先を促した。

「…で、理由は何?」

問い掛けるヒバリから視線を背け、俺は居心地悪くてたまらなくなった。…ハッキリ言っていいたくねーのなあ…。

「…さっさと言ってよ」

ヒバリの、威嚇するかの如く睨む眼に負けて、俺は観念して白状した。

「…あーそのー…俺がさ、ツナに愚痴ったんだ」
「何を?」
「…最近ヒバリと会えなくて寂しいって…」

ヒバリが目を見開いた。うわあああ言っちまったっすげー恥ずかしい…!

「…だ、だからツナは俺の為を思ってお前に連絡したんだと思う…」
「……」

俺は顔を合わせられなくてテーブルに突っ伏した。…呆れられたらどうしよう。
ヒバリの沈黙がいたたまれなくて更に顔が上げられない。

…暫くして、ヒバリが小さく呟いた。

「…馬鹿だね」

酷い言葉とは裏腹に、優しい手つきで俺の頭を撫でた。

「だったらこの機会に連絡くれれば良かったんだよ。そしたらどんなに忙しくても、無理矢理にでも僕は君と会う時間を作ったのに」
「…それは悪いし…」
「本当に無理なら断るから。遠慮しないで誘ってよ」
「…ごめん」

…そうだった。ヒバリは恋人だからって俺を無闇に甘やかしたりしない奴だった。恋人だからってやたらと気を遣ったり、何もかも俺を優先するようなことはしない奴だった。
…そういう、俺を対等に扱ってくれるところも好きなのに、悪いことをしてしまった。

「…沢田の口からじゃなく、君の口から会いたいって言って欲しかったよ」
「…ごめん」
「…仕方ないけどね。忙しかった僕も悪いし、まあ忙しかったのは君もだけど」
「…うん」
「…僕も遠慮しないから、君も遠慮しないでよね」
「…分かった」
「いい子だね」

…ハタチ過ぎの男にその言葉を掛けるのはどうだろうと思ったが、そういえば昔からヒバリは時々俺を子供扱いしてたなとぼんやり思った。
…別に嫌じゃないからいいけど。ヒバリは果たして楽しいのだろうか。

つらつらと考えてから、俺はあることに気づいて顔を上げた。

「ヒバリ!今日仕事じゃ…」
「沢田に連絡を受けた後、速攻で片づけて来たよ。…まあ、明日は仕事だけど」
「…そっか…」
「明後日は休めるよ」
「!」

俺が目を丸くすると、ヒバリは優しげに眼を細めた。

「一緒に過ごしてくれる?」
「…勿論!」

俺は笑顔で頷いた。本気で嬉しすぎる。ヒバリに連絡してくれたツナには感謝しねーとな。俺はそう思って親友の顔を思い浮かべた。

「じゃあとりあえず、はい、これ」

ヒバリは手に持っていた紙袋をテーブルの上に置いた。中を覗くといくつかの甘い香りを漂わせたお菓子が入っていた。

「なんでお菓子?」
「…君、僕が開口一番に言った台詞覚えてる?」
「え?…あ!」

そういえば今日はハロウィンだったか。自分には関係のない行事だったからすっかり忘れていた。

「そう、だからお菓子。甘いもの、嫌いじゃなかったよね?」
「ああ好きだけど…でもいいのか?ヒバリは言った方なのに。まあ俺もお菓子なんて持ってないけど…」

俺が困惑気味にヒバリにそう言うと、彼は小さく笑った。

「いいんだよ、僕があげたかっただけだし。それに君からのお菓子は後で貰うから」
「え?だから俺はお菓子なんて…」

人の話を聞いてたのか?首を傾げる俺に、ヒバリは身を乗り出して俺に顔を近づけた。不意打ちに思わずドキリとした。

「分からない?僕にとっての甘いものは、君自身なんだけど」
「!…ん…っ」

驚いた俺の隙をついて、ヒバリは触れるだけのキスをしてきた。…うわ…っすげー久しぶりな感触だ…。

ぼうっとする俺に、ヒバリが視線を合わせて微笑んだ。

「…今日、此処に泊まってもいいよね?」

…拒否なんて出来る筈もなければ、俺も一緒にいたかったから素直に頷いた。
そんな俺に、ヒバリは更に笑みを深めた。

「…ありがとう」

そのまま、ぎゅうっと抱きしめられて、俺も抱きしめ返した。傍にいられる嬉しさと、これから起こる甘い夜に思いを馳せて、俺はそっと眼を閉じた。





…終わりです。10年後の雲山でハロウィン小ネタ(?)でした!

現代とパラレルでは、雲雀さんが冒頭で「トリックオアトリート」と言われたので、10年後では言う方にしてみました。

なんとか捻りだしたネタですが、思ったより甘くなった気がします。我ながら甘い雲山に飢えてんのかな(苦笑)。

という訳で、誰も待ってなかったでしょうけど10年後ハロウィン小ネタを無事アップ出来ました。現代、パラレル、10年後…全部アップ出来て嬉しいです。めっちゃ自己満足ですが(苦笑)なんだか達成感を感じました。

読んで下さって有難うございました!