春の柔らかい日差しを全身で浴びながら私、一之瀬奈緒は立ち尽くしていた。
まだ五分咲きくらいの桜を尻目に携帯を握りしめ辺りを二、三伺いみる。誰もいないことを確認してから深いため息をついた。
それもこれも全部あの子のせいだ。声を大にして叫ぶ出したい気持ちを抑え、今一度ため息をつく。


朝の目覚めは割といい方だと思う。
寝巻のまま台所え向かうと机の上にはきちんとしたご飯が当然のように準備されている。それをゆったりとしたスピードで食べつくせば洗面台へ流れるように移動して洗顔歯磨きを終える。

さてご飯も食べた、出かける準備は万端。
よし、行くぞ!!気合も十分に拳を握る。なんたって今日は入学式!そう、私の入学式なんだから!

そんな私の気合は数秒後に入った電話によって空回りしてしまうわけ。

無機質な電子音とあまり心地よくないバイブに気づき携帯を開くと画面には"沙織"と表示されていた。同中出身の友達で今朝は共に高校に行く話になっている。だからきっと、こっちに着いたよ、とかそういった感じの電話だと思ったんだ。


「もしもし?」

『もしもし、奈緒』

「どうしたの?」

『ごめん、今日彼氏と学校いくことになったから!』

「………は?」

『まあ、しょうがないよね。私は恋愛に生きる女っていう設定だから』

「え、何その設定って」

『この物語のせtt「シャラップ!!」

「生々しい話をスタートラインの時点で織り交ぜちゃ駄目です」

『まあ、とにかくそういうことだから』

「待て!…あぁ切った!畜生!!」



新生活初日から友達に約束を蹴られました。


そんなこんなで迷子です。なんてたって、私は道を覚えるのが大の苦手だから。
(※なんたって王道)

右と左はわかるが高校どこにあるかは知らない。だって道覚えられないから。
かれこれ10分近く動き回っているが何故か高校生とすれ違いもしない奇跡。

まあ、わからないなら聞きゃいいじゃん?と開き直り精神で私は辺りを見まわした。


すると、今の今まで見る影もなかった学生服の人物を見つけた。
そう意外と私は運がいいのだ。
(王道)

しかも、どう見てもあの制服は私と同じ!!!
はやる気持ちを抑えて私はコンクリートで綺麗に舗装された地面を真新しいローファーで蹴った。


「すみません!」

私に背を向けて歩いていたその人は先輩だろうか、とても落ち着いた様子でこちらを振り返り「何か?」と短く返答をくれた。振り返ると同時に揺れた黒いポニーテールは乱れることなく綺麗にまとめ上げられている。

「あの…ちょっと、お聞きしたいんですけど…」

「どうぞ。」

淡々とした彼女の言葉に少し押されつつも私は意を決した。恥ずかしいとか言ってられない、遅刻するわけにはいかないのだから。

「如鶴高校ってどういったらいいんでしょうか?」

聞いた、聞いてしまった!もう後には引けないぞ、私!引いたところでどうしようもないがな!

こんな質問笑われてしまうと思っていたらポニーテールの先輩は表情を欠片も変えることなく「ああ、」と口を開いた。住宅が並んでいるだけあってコンクリートの塀に囲まれた道の先をまっすぐ指さして先輩は続ける。

「もうすぐそこです。このまま真っ直ぐ行けばわかると思います。」

なんて丁寧な先輩なんだろう。そう感動を覚えつつ逃げ出したい衝動に駆られた。
すぐそことか…どんな自爆…。絶対変だと思われた。

「それじゃあ、私は先に行きますね」

「…あ!あぁ、はい、ありがとうございました!」

恥ずかしさから声が裏返ってしまったが、先輩は気にすることなく一礼して行っていた通り、道を真っ直ぐ歩き始めた。
やっぱり高校生ともなると落ち着き具合が違うよね。私もいつかあんな風になれるのだろうか。


いったら沙織に鼻で笑われるだろうな。

先輩から教えてもらった通り進んでいくと『如鶴高校入学式』という立て看板が堂々と置いてあった。何故、10分も歩いてここにたどり着けない、自分!


外に貼られたクラス分けを確認していると背後から肩を叩かれた。

「奈緒、おはよう」

「これはどうも、友達よりも恋人優先な沙織さん」

振り返れば綺麗な栗色の髪をこれまた綺麗に巻いた沙織が立っていた。この間まで髪の毛真っ黒だったのにいつの間に染めたんだよ…。

「まあまあ、そんなのいつものことじゃんね」

「それをスタンダードにする精神が信じられない!友達大切にしようよ!友達百人できるかな、だ!」

「意味分かんないんだけど」

「私もわからん」

「じゃあ、教室行く?私たち同じクラスだし」

「あ、ほんと?」

「ほんと、ほんと」


教室にはもう結構な人であふれていた。それぞれ新たな環境に期待を隠しきれないようでそわそわしている。私や沙織と同じ中学から来た子も何人かいるらしく見たことのある顔がちらほら見られた。

「それにしてもよく高校までたどり着けたわね。私絶対無理だと思ってたのに」

「そう思うなら迎えに来てよ…」

「命短し、恋せよ乙女!」

「わかったから」

中学の時から沙織はこんな感じで友達と恋人優劣がはっきりついていた。わかりやすくていいけど、たまには傷つくんだよー。

「それで?どうやってここまできたわけ?まさか自力だなんて頭の悪いウソつかないわよね?」

「うるさいな!まだなんもいってないでしょうが!」

「それで?」

「途中で先輩がいたから道を聞、い…」

そこまでいって視界の中で黒い尻尾が踊った。私は教室を見まわすように視線を動かして行った。そして見た。視界の中で踊ったものの正体を。

「奈緒?先輩がなにって?」

「うおおぉぉおおお!沙織あかん!しゃべったらいかん!」

「何キャラ…」

「やばいよぉお」

「何情けない声出してんの?」

「あのね結局人に道聞いたんだけど…」

「ごめ…っ笑っていい?…」

「殴るよ?まあ、それでてっきりその人この学校の先輩だと思ってたんだけど…」

「何よ」

「そこ」

「ん?」

「そこにいる」

私が向こうに見えないように隠しながらポニーテールの少女を指さすと沙織はそれを目で追い、呆れたように肩をすくめた。

「やめて、そんな目で私を見ないで」

「見るよ。何のために学年ごとでネクタイの色が決まってると思ってんだ」

「やめて、言わんで!」

「まあ、いいや。折角だしお礼でもいっといたらいいじゃん」

「これ以上私に恥をかけと?」

「知らんよ。奈緒が気にしてるほど恥ずかしいことじゃないし」

「無理」

「ふーん、じゃあ私が行ってこよっと」

「一番やめて!」

そんな私の静止の言葉で沙織が止まってくれるはずもなく、ささっとポニーテールの少女に話しかけている。なんというアクティブ!

私も別に人見知りというわけではないから割とすぐに人と打ち解けるが沙織は私の比ではない。どんな子でもというと明らかに言い過ぎだが大抵の人とはすぐに仲良くなってしまう。彼女の特技といってもこれは言い過ぎではないだろう。
しばらく少女と話をしていた沙織は不意にこちらを向き、私を手招きした。

「奈緒、こっちきなよ」

「…あなた、朝の…」

私の姿を認めると少女は少し動きを止めて呟くように言う。そうです、入学式の朝っぱらから道に迷ったのはほかでもない私ですが何か?

「さっきはその…すみませんでし…ぃ…ったぁああ」

いたたまれなくて勢いよく頭を下げるとそのまま少女のいる机に頭をぶつけた。

「大丈夫ですか?」

「毎度こりないわね、あんたも」

よくやります、お辞儀と同時に頭をぶつけるの。ええ、これが私の特技ですが何か?

「まあ、あんたの珍行動はさておき」

「置くな、心配しろ…」

「雫、このあほっぽいのは一之瀬奈緒。私の友達」

「あほっぽいって失礼だな、おい」

「んで、あんたが朝っぱらから迷惑をかけたこの子は藤堂雫」

「返す言葉もない」

がっくりとうなだれながら少女を見ると、やはり表情一つ変えずに「よろしく」と口にしてくれた。

「よ、よろしくね!」

あわてて私も返す。それにしても同級生にしては本当に落ち着いてるなぁ。

そんな風に藤堂さんのことを見ていると饒舌なさおりの口がまた開いた。

「奈緒ってば雫のこと先輩だと思ったらしいよ」

「なぁああああんで言うかな!それを」

「というか、わざわざ私に道を聞かなくても私の後をついてくれば良かったんじゃないかと思いますけど…」








あぁ、そっか、なるほどね。



私はそれだけ口にするのがやっとで、隣の沙織は大爆笑の真っ最中。

私の勇気とか覚悟とか色々返してほしい。






−−−−−−−−−−−−−−−

やる気ないな、とか自分が一番わかってるし。

奈緒のキャラの不安定さが半端ない。


てかさっそく高校の名前出ちゃったww
『如鶴』と書いて"じょかく"と読みます。

ちなみにタイの色は一年青、二年赤、三年緑

続く話になるのか飛びまくるのかは定かでない。