「学校は勉強するところって思ってるでしょ?」


いつだったか、もうかをも名前も思い出せない少女に呆れたように言われた。

答えはNOだった。
別にそこまで勉強が好きなわけじゃないし、学校は友達と遊んだりして、人間関係を育む場所だと思っている。ただ私にとってそれがあまり優先されて必要ではなかっただけに過ぎない。友達がいないわけでもないし、人間関係が煩わしいとか人間不信とかそういうわけでもない。積極的に動く気がなかっただけで、会話も行動も何もかも私から発生することはなかった。

だからだろうか、いつしか一人が好きな子、というイメージが先行していた。まあ、確かに嫌いじゃない、なんてことを思いながら生活したらイメージはより強く周囲に根付いた。


暗闇から覚めると無機質な天井が飛び込んできた。少しクリーム色がかかった色は建築物の壁や天井の色としてはお決まりだろう。飾り気のない室内は、割と狭いが一人で生活するのにはちょうどいいくらいだと私は思う。七、八畳くらいの室内の床はフローリングになっていて、足を下ろしてやるとひんやりとした。


寮がある如鶴高は遠方から受験してくる人が多く、私もその一人である。家族のことは好きだが、こうして誰も自分を知らない地まで来たのは他人と疎遠な自分を変えたいと、心のどこかで思っていたからかもしれない。



学校と敷地を同じくしていない寮は、学校まで徒歩5分くらいのところにある。普段からスポーツなんてものをしない運動不足な私にとっては、ないよりマシと思える運動だった。
寮生はほとんど登校してしまったのか、通学路には誰の姿もなかった。真新しいローファーが舗装された道を蹴ってコツリと音を立てる。真新しい制服は少し硬く、真新しいスクールバッグは歪みなく形を保っている。

入学式に新入生が遅刻するわけにはいかない。そう思い、歩を速めた時だった。


「すみません!」


その声に思わず振り返ると自分と同じ制服を着た少女が気まずそうに立っていた。一瞬呆気にとられたが。視線を顔から胸元までおろし、ネクタイの色を確認する。青、ということは彼女も新入生なのだろう。

どうやら道に迷ったらしいその子に学校がこの近くであることを伝え、また学校へと向き直り歩き出した。きっと「一緒に行こう」とか言えれば人付き合いのできる子だと思われるのだろうが、生憎とそんなことは言えない。そもそも朝は一人でマイペースに歩きたい。


校庭では新入生が大きなパネルの前に群がっていた。おそらくクラス分けの張り紙が出されているのだろう。自分も何とか人の間を縫ってパネルに近づこうとする。前に行くことにしすぎたためか、人の動きが不規則すぎたか、誰かとぶつかってしまった。しまった、と思うには遅すぎて、足元に落としていた視線を上げる。そこにいたのは、あからさまに髪を染めていると思われる男子二人だった。


「あ…不注意でした、ぶつかってすみません」

人がひしめき合う中、スクールバッグを腕の中に抱いて軽く頭を下げた。

「ん?…あぁ」

どこか不機嫌そうな声音で応えたのは、ほぼ金色に近い髪色をし、仏頂面な男子だ。仮に彼をAとしよう。Aの様子に呆れ半分といった面持ちでため息をついたのは、ハニーブラウンの髪で、容姿の整った男だった。彼をBとする。BはAの肩に自分の左腕を回し「あのなぁ」と口を開く。


「こういう時はこっとも悪かったくらい言わないと」

「なんでだよ。つーか、腕回してくんな、重い」

「相変わらず冷たいなぁ。世の中は春なんだぞ?少しは暖かい心と言葉を持てって」

「大きなお世話だ、年中春頭野郎」


言葉面は何とも一方通行な感じだが、二人の動きも合わせて見るとじゃれあっているようにしか見えない。Aの表情は変わらず無愛想なままだがなんだかんだ仲良しということか。

「ごめんね」


謝ったし、もういいだろうと判断してパネルにさらに近づこうとすると、唐突に上から声が降ってきた。驚きに顔を上げるとAを引きずるようにしてBが立っていた。

「こいつさ、愛想ってもんを知らねぇから」

「うるせーよ」


Aの首にはBの腕がまだ回っており、それを外そうともがくAの表情はあからさまに嫌そうだ。中々外せないところを見ると、AよりBの方が力はあるらしい。

「いえ、大丈夫なんで」


愛想がないといえば私もないのだから人のことはいえない。緩く首を横に振ってBの言葉に応えた。するとAとBの後ろkら新たに人が現れた。


「ユウヤ、見つけた!」


そう叫ぶように言ってBの空いてる腕に自らの腕を絡めたのはボブヘアーのスタイルのいい女子だった。ネクタイの色が赤色ということは2年生、つまりは先輩だ。どうにもBの名前は"ユウヤ"というらしい。

やってきた女子の顔を見るなり、ユウヤはAの首に回していた腕をあっさりとほどいた。


「あ!おはようサキ先輩」

「登校したら連絡するっていってたのに!」

「ごめんなさい、先輩。新入生はやらないといけないことが多くって」


全く悪びれた様子もなく笑うユウヤにサキと呼ばれた先輩は「はいはい」と呆れた様に肩をすくめる。


「とりあえず、時間ないからキスだけちょうだい」


言い切るが早いか、サキ先輩はユウヤのネクタイを引っ張り、自分に唇とユウヤのそれを重ねた。それが見えていないかのように表情一つ変えずにユウヤはそれを受け入れる。なるほど、恋人なのか。何もこんなところでそんなことしなくても。ざわつく心を胸の奥にしまいこみ、私はそのままパネルの方へ歩き出した。


青空の下、満開の桜が見れるのはまだ先になるようだ。






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もう誰が主人公なのやら


A→なつめ
B→悠夜

サキ先輩は後々出てくるかもしれないしでてこないかもしれない


これからどうしようかな