溺れなければ良いのです(軍医)


酒は呑んでも飲まれるな。
よく聞く言葉だ。そして的を射ている。
酒は一時的に人に快楽を与えるが、酒に溺れた者が支払う見返りは大きい。
少したしなむ程度に。それくらいで十分なのだ。

しかし今日の私は珍しく酔っている。
体全体にふわふわとした熱がまとわりつき、思考を鈍くさせる。
今日は久しぶりに彼の部屋に来た。
以前はもっと頻繁に来ていたのだが、ある日を境にその回数は格段に減った。
私はその理由を知っている。彼は私が知らないと思っているようだが、それはそう思い込みたいだけだろう。
私はあの日――あの夜、彼がしたことに気付いていた。
私は知りたかった。
何故彼があんなことをしたのか。
酔いに踊らされただけのことならそれでいい。
だが、もしそうでないのなら、ちゃんと聞きたい。
期待と不安が共生する不思議な感覚に胸が熱くなる。
私を避けるようになった彼の部屋に半ば無理矢理押し掛け、時々こちらをチラチラと窺っては口をつむぐ彼にどう切り出そうか考えを巡らせる。
そうしている内に酒が進み、酔ってしまったというわけだ。

(これでは本末転倒もいいところ)

しかし、状況が前回と近くなれば、彼も行動を起こしやすくなるのではないか。
向こうからアクションがあれば話もしやすくなるに違いない。
そう思い、今夜は酔うに任せることにした。

「ファウスト、飲みすぎではないか?」

そう言う彼はまったく酒が進んでいない様子。
飲まないのかと指摘すれば、少し顔を赤らめてグラスを傾ける。

「し、しばらくは量を減らそうかと思ってな」

いつもなら懸命なことだと思うのに、何故か今夜はそれがつまらなく感じた。



「……ト、ファウスト。平気か?」

しまった。飲みすぎた。
襲いかかる睡魔が憎い。
結局聞き出すことが出来なかった。勇気がないのはお互い様ということだろうか。
睡魔が頭をぐらぐらと揺らす。
今日は、諦めますか。

「……はぁ」

見かねた彼が私を抱き上げた。
ソファから柔らかい大きなベッドに運ばれる。
あの夜のようだ、と霞かかった頭で考える。

「……おやすみ」

彼が小さく言って、私の側から離れていく。
限界まで睡魔に意識を奪われた私は、なんとか口を開くことに成功した。

「ポチョムキンさん……」
「! ど、どうした?」
「今日は――」

しかし、この後私が何を言ったのか私自身は認識することが出来なかった。
明日、目が覚めたら彼に確認することにして私は眠りについた。





 ***

「今日は、しないんですか」

そう言われ心臓が飛び出すかと思ったというのに、ファウストはそれっきり眠ってしまった。
バレていたのか!?いやそんなまさか!
明日、彼が目が覚めたら一体どんな顔をしていればいいんだ!?



おわり



進展したような、していないような。
変な話ですね。
先生の視点は珍しい気がします。

スレガブ


帽子がぱさり、と足元に落ちた。
見開かれた目の奥に映る自らの姿に、思わず口角を上げる。
こんなに綺麗な瞳なのだから、帽子で影を作って隠さなければいいのに。
ああ、しかし、それだと私以外も彼の目の美しさを知ることになる。
それは、困るな。

「んっ、く……」

苦しげに漏れた声。
口の端にねじ込んだ指に歯が立てられる。
手が、足が、なんとか私を引き剥がそうと苦悩する。

(君の力では私には敵わんよ)

笑って彼を見ると、その目に抗議の色が強く映し出された。
キツく睨む、その目。
ぞくりと背筋を撫でる感覚に、心が躍る。
唇を離し拘束を解いた途端、彼は私に向かって拳を振り上げた。
それを片手で掴むと、彼の眼に今度は悔しさと嫌悪、そして疑惑が表れた。

「どういうつもりだ」

その目とは裏腹に冷静に紡がれようとする声。
ああ、

「君の目が」

綺麗だと、思ってね。



<決して私の物にならぬ高潔さ>


スレイヤー→ガブリエル(青年)
キスと好奇心

この魂に懸けて(軍医小説)


「一緒にいたいです」

腕の中に納まる彼が口にした言葉は、とても小さく、儚かった。
聞き逃すことのないよう、全神経を彼に向ける。
密着したこの状態でも、そうしていなければふとした瞬間に消えてしまいそうだったからだ。
優しく背を撫でる。少しだけ、彼が震えたのが分かった。

「ファウスト」

安心させるようにゆっくりと背を撫でながら次の言葉を促す。
おずおずと口が開かれ、閉じる。
俯き、思案する。
言っていいのだろうかと。望んでもいいのだろうかと。
やがて決意したように、彼は顔を上げた。

「あなたと、一緒にいたいです。ずっと、これからも……一緒に生きたい」

言い終わった瞬間、彼を思い切り抱きしめる。
苦しそうな呻き声を聞いて慌てて力を緩める。
彼は、少しだけ笑った。

「俺もだ。ずっと、俺のそばにいてくれ」

彼を壊してしまわないように気をつけながら、今一度腕に力を込める。
離れてしまわないように。
どこにも行かないように。

「俺がお前を守る」

決心と願いを込め、彼に口づけをする。
この先何が起こったとしても、この誓いだけは破らせない。

「一緒にいよう」

この魂に、誓う。



あいのことば

今夜は月がないものだから (軍医小咄)

もともとポチョムキンは酒をよく飲む方ではなかった。
まず体に良くないし、酔った状態では何か起きた時に対応できない。
しかし、ここ最近の彼は月に何度か酒を飲む日を心待ちにしていた。
ファウストが来る日だ。
すっかり気の置けない友人同士となった彼らは、ポチョムキンの家で酒を飲みながら語らうのが習慣となっていた。

その日のポチョムキンは朝から落ち着きがなかった。
チップにそれを指摘され、からかわれるくらいに分かりやすいほど。
ずっとそわそわと何かを気にしている。テメ―にしちゃ珍しい。何かあるのか?
そう理由を聞かれ、ポチョムキンは曖昧に返事を返した。
ポチョムキンがファウストと会うのは、必ずではない。
ポチョムキンに急な任務が入ったり、ファウストが急患を看るため来られなくなったりすることが度々あった。
その日も一応会う予定の日ではあったが、前回、前々回とそういった理由から会うことは叶わず、すでに一カ月ほど会えない日が続いていた。
今夜ももしかしたら会えないかもしれない。
友人に会えないのは寂しい。
チップの問いに対してもそう正直に言えばよかったのかもしれないが、ポチョムキンの中にはそれだけでは説明できない感情が生まれていた。
もしそれに気づかれでもしたら、と思うと、適当な返答しかできなかったのだ。
そのポチョムキンの態度にチップは面白くなさそうな顔をしたが、頑固な同士がそう簡単に口を割らないことを知ってか、さっさと仕事に戻っていった。

こんばんは、とドアがノックされた。
来訪者は誰か分かっている。はやる気持ちを抑えドアを開ける。
お久しぶりです。
そう言ってファウストは笑った。

二人きりになると、途端にファウストは無防備になる。
普段は隙だらけのように見えてまったく隙を作らない彼であるのに、白衣を脱いですっかりソファでくつろいでいる。
ポチョムキンもその隣に座って、ファウストが持ってきた酒を彼のコップに注いだ。
コロニーで診た患者が礼にくれたものらしい。
流麗な曲線を描く透明な瓶にたっぷりと揺れる、光沢をもった濁りのないそれは今までに口にしたことのないものだった。
少々クセはあるが、なかなか好ましい。
ポチョムキンはもともと酒をよく飲む方ではない。
しかし、弱いわけではない。
ほのかな酔いに包まれながら、友人との語らいに花を咲かせる。
その時間こそ、酔ってしまいそうなくらい穏やかで心地よかった。

ひとしきり話をしたところで、酒瓶が空になったことに気がついた。
ポチョムキンが新たに酒を調達しに行こうかと思っていたところ、肩にこてん、とファウストの頭が乗る。
どうしたのかと見れば、見える首はすっかり赤く色づいているし、喋る言葉もむにゃむにゃと要領を得ない。
どうやら酔いが回ったらしい。
ファウストが酔うところを見たことがないわけではなかったが、いつもより少し早いように感じた。
酒が強かったのか、と空になった瓶を弄る。
ポチョムキンがそうしている間に、ファウストからは寝息が聞こえてきた。
起こすのも忍びなく、もう少し話がしたかったと残念に思いながらため息を吐く。
背をソファに沈ませると、ファウストも寄り添うようにしてポチョムキンに体を預けた。
かすかに腕にかかる寝息にぞくりと脳が震える。
ファウストの体を向け直し、ソファに寝かせるようにする。
その時、むにゃと開いたファウストの口がポチョムキンの名を呼んだ。
寝ぼけているだけだろう。
しかし、それで完全に参ってしまった。

好きだと思った。
会いたいと何度も思った。
会えない間、何度も彼のことを考えた。
友人に抱く感情ではないと知りながら、既に止めることも出来なくなっていた。
好きだ。

ファウストの体を抱き直し、軽くキスをする。
相手は眠っていて、恋人でもないのにこんなことを、とどこかで制止する声がする。
しかしその声も熱に浮かされた脳の片隅に追いやられてしまった。
薄い、しかし柔らかな唇に吸い寄せられるように何度も口づける。
起こしてしまわないように、これ以上激情に流されないように慎重に――。
腕の中でファウストが呻いた時、ようやくポチョムキンの理性は覚醒した。
慌てながらもなるべく丁寧にファウストを寝かせ直す。
そして自分のした事を冷静に考え直し、激しい後悔と自己嫌悪がポチョムキンを襲った。
ファウストが起きなかったことだけが救いだった。
そおっとファウストが寝ていることを確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。
そして再び彼は頭を抱え込んだ。
酔いのすっかり抜けた彼の体は冷え切り、嫌な汗が流れる。
ファウストが何も知らない内に自分も忘れてしまおうと酒を棚から取り出し一気に煽る。
しかし頭が一層痛んだだけで効果らしい効果は期待できない。
ならばもう眠ってしまおう。
半ばやけになったポチョムキンは、ファウストをベッドに運ぶと(この間も直視は出来なかった)ソファにどかりと座り込んでぎゅっと目を閉じた。
眠って、夢にしてしまえば。
そうは思っても先ほどの自分の行動が脳内で幾度も繰り返され、結局ポチョムキンはちょうど事の起こったソファで苦悩する羽目になるのであった。

一方、ベッドでファウストが体を丸めながら顔を真っ赤に染めていることなど、彼は知る由もなかった。

寒い夜のこと

「今夜は冷えますねぇ」
「そうだな」
「……」
「……」
「……寒いですね」
「? 暖房をつけるか?」
「……いいです」



「何故誘われているのに気付かん……!」
「覗きはどうかと思うぞ、ガブリエル……」



鈍感過ぎる軍医も好きです。

AC+ポチョストーリー、ファウスト戦で敗北すると

「ぐあっ……」
「だから絶対安静だと言ったでしょう!」
「しかし、私には任務が……」
「その傷では任務どころではないでしょう。今度こそ、大人しくしててもらいますよ!」
「だが……」
「任務のためとはいえ、あなたが命を落とすようなことがあっては本末転倒もいいところです。……遺憾な事とは思いますが、今回ばかりは見過ごせません」
「……」
「お願いします」
「……分かった」
「良かった……!ありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。……それと、すまなかった」
「いえいえ、私の方こそ。……さ、治療を続けましょう。大丈夫、私に任せてもらえばどんな傷でも治してみせますよ!」



というポチョムキン隠しED3が見られません。

ガブリエルとスレイヤー

AC+ スレイヤーED後



なるほど、もう会うこともない、か。奴らしい。

……なんだ? ――寂しい?
フッ、まさか本気で言っているのではあるまいな、ポチョムキンよ。
私と奴はそのような関係ではない。
親友と呼ぶほど生温くもなく、宿敵と呼ぶには鋭さが足りん。
……ふむ、考えてみれば、我々はどのような間柄だったのか……。
ともかく、彼はおかしな男だったよ。

……そうだな。
最後に、手合わせくらいはしたかったものだ。


 ***


大統領は実に素敵な方ですよね、という思いを込めて。
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