Lost Memory
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2011.10.10 11:58 [Mon]
Melody which was not able to be spun…W



一人でいることは割と平気だった。
両親は離婚し、今まで一人でいることの方が多かったから。
アイドルをやっているのだから、色んな人に囲まれているじゃないか、なんて言われそうだが、それは違った。
誰も本当のトキヤを見ようとはしていなかったから。
トキヤではなく、皆"HAYATO"が好きなだけ。
結局、アイドルになっても一人に変わりはなかった。
それ故、音也がもう屋上には来ないかもしれないことだって、本当は自分の中ではどうでもよかったことなのかもしれない。

今までの自分なら…。

毎日、来る日も来る日も、あの時が戻ってくるのではないかと考えて屋上へ足が動いてしまう。
それはトキヤにもわからない、無意識の行動で。
彼は屋上で歌い続けた。
二人で歌っていた歌も、そしてHAYATOの歌も…。

今日も歌おう。歌が届くように。

そう思って屋上へ続く階段を上がり、外へと出るドアを開けた。
日の光が眩しいくらいに包み込み、思わずトキヤは目を細めた。


もう泣かなくていいよ そのままでいい


空を見て Ah…my sweetest love


刹那、その光の中によく知った、それでいて優しい旋律が流れる。
トキヤは、目を細め、光の中の旋律を辿った。
その先には、あの時と同じように、光を纏った天使がいて。
今にもその羽根を広げ、飛んで行ってしまうのではないかという錯覚に襲われた。それを阻止したくて、トキヤの足はその方向へ動き出し、自然と手が伸びていた
しかし、天使は空を飛べる翼を失っていた。
ガクリ、とその場に崩れ落ちる。
まるで飛べないことを嘆くかの如く…。

「音…也…?」
「……、」

心配で、彼の顔を覗きこめば、そこにあの笑顔はなかった。
はらはらとルビーの瞳から涙を流し、拳を握り締めていて。

「音也……。」
「っ…、…ゃ……、た……て…」

助けて……

こんな彼は、会ってから一度も見たことがない。
正直、こんな時どういう言葉をかければいいのかトキヤにはわからなかった。
抱き締めるしか出来ない自分が酷く滑稽だった。
音也を苦しめ、縛りつけ、飛べないようにしたのは自分なのに……。
それでも、トキヤは音也をきつく、きつく抱きしめた。
これ以上、彼を壊してしまわないように……。

















「ごめ…、ね…、トキヤ…。」
「謝る必要なんてありませんよ…。」

泣きたい時は、泣けばいいのです。
トキヤのその言葉に、音也はありがとう、と消え入りそうな声で応えた。

「トキ…ゃ…、オレ、ね……」

いつか声が出なくなっちゃうんだ。

そう言って打ち明けられた彼の症状。
医師から簡単には聞いていたが、本人からその言葉を聞きたくはなかった。
元々身体が弱く、持病があったと話す彼。
それでも歌が好きで、施設の先生に反対されたが、芸能学校に入学した。
しかし、歌い、踊り続けなければならない芸能学校の授業は音也の持病を悪化させ、その身体を蝕んでいった。
2か月程前からここにいて、学校には行けていないという。

「そ…なとき、…テレビで見た…が、HAYATOだ…った。」

自分と同じくらいの歳で、自分が目指していたアイドルをやっているのがとても羨ましく思えた。
最初はただの憧れでしかなかったけれど、HAYATOではないトキヤと出会って、話してみたい、一緒に歌を歌いたいと思った、と音也は笑って告げた。
HAYATOでいるトキヤもすきだけど、誰でもない、ありのままのトキヤの方が輝いてるけどね、と付け足して。



トキヤはその時の音也の顔が忘れられなかった。



天界から降りてきたのではないかと見間違えた、明るく笑う彼の病状は数週間で悪化し、みるみる内に体力を、そして声を奪って行った。
今となっては自分では歩くことさえ叶わず、病室のベッドで暮らしている。
それを知ったトキヤは、退院後も自分が来られる日、そして居られる限り、音也の元を訪れ、傍について、歌を歌った。
二人で練習していた歌を。

『トキヤ』
「どうしたんです?音也。」

彼の声なき声が、口元が自分の名前を呼ぶのに気が付き、トキヤは傍にあった紙とペンを音也に渡した。
音也はそれを受け取り、力の入らない手で、トキヤへのメッセージを書き綴る。

はい、と差し出された紙を受け取り、トキヤはその表情を驚きのものへと変えた。
「音也…、これは……」

そう問えば、音也は笑顔を浮かべ、『ぜったいいくから』と伝えた。
音也が書き綴ったメッセージ。
『HAYATOのライブ、もうすぐだよね?俺、行くからね!』と書かれていたのだ。
トキヤは、このライブで引退しようと考えていた。
元々、アイドルという仮の姿をやめたくて仕方がなかったのだが、今やめたい理由はそこにはない。

音也の傍にいたいから

ただ、それだけだった。
しかし、今の彼に今回のライブで引退しようと思っているとは告げられるハズもなく、トキヤは話を進めた。

「音也。ライブはテレビでも放送されます。今の貴方では……」
『だいじょうぶ。おれ、いくから。』

まるでトキヤの言葉を遮るかのように、音也はそう書いた紙をトキヤに差し出した。
本人は大丈夫だと言うが、トキヤは素直に見に来てくれと言えなかった。
寝たきり状態で、ここ数日も高熱に侵食され、今まで以上に体力が落ちてしまっている。
そんな彼が今、外に、しかも人が多く集まる自分のライブなどに来ればどうなるかなど、医者ではない自分にもわかる。
このような状態の彼に、一日でも長く傍にいてほしいと願うことは、苦しみを長引かせるだけで酷なことなのかもしれない。
それでも、トキヤは失いたくなかった。
音也という存在を。

「では、ライブの席を用意しておきます。」
『ほんと?』
「ええ。しかし、それには条件があります。」

しっかり体力をつけて、自分で動ける状態に回復すること。

それでなければ用意は出来ない、トキヤはそう言ったのだ。
その言葉に、音也は一瞬静止したが、不器用な笑顔を作って『わかった』とだけ言った。


ライブは、あと2週間後に迫っていた――…………





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