紅茶一杯。



バウムクーヘンとモブ
2017年3月4日 16:07

話題:二次創作文

※モブサイコ100
※本日の記念日ネタ
※バウムクーヘン食べ過ぎ



暗くて狭い場所に居ることに気付いた茂夫は、自分の状況を把握する前に頭上から差す光に気付き、その光に誘導されるかのように目指しだした。
上下もいまいち解らず、立ち上がるスペースすらないこの場所で、光だけを頼りに匍匐前進する。
辺りが暗くてよく見えないが甘い香りが漂っている。
(そういえばフカフカだ……)
この不思議な場所は茂夫を囲む全てがフカフカと柔らかく、甘い香りがした。
(食べ物の中?)
そうだ、まるでお菓子の中に居るみたいだ、と茂夫は気付く。近場をむしってみた。
匂いを嗅ぐと甘い焼き菓子の香り。舌先を付けてみるとやはり焼き菓子の味。
警戒しながら食べてみると、とても美味しかった。
茂夫はしばし悩むと、とりあえずここから出ようと判断した。
あの光はきっと外で、あそこへ行けば状況が解るかもしれない。茂夫は再び匍匐前進した。


光の先は確かに外だったが、謎の焼き菓子から顔を出した茂夫の目の前には巨大な霊幻が不思議そうな顔をして茂夫を見下ろしていた。
「モブ?」
「師匠。」
茂夫が反応すると、霊幻は驚愕し
「なにやってんだよお前!?」
と体を引いていた。何と言われても。
と茂夫は困惑し、辺りを見渡した。そこは相談所だった。しかしいつもと見え方が違う。
キョロキョロ見回す茂夫に大きな手が伸びてきた。
「お前なんでこんなサイズになってんだ。てかなんでバウムクーヘン(超厚切り)の中にいんの?」
困惑する霊幻に茂夫も困惑しながら
「わからないです。」
と返す。霊幻の手に移った茂夫は、霊幻が親指でバウムクーヘンの欠片を払ってくれるのを受け入れる。
テーブルに降ろされると茂夫は霊幻を見上げた。果てしなくデカい。
「じゃあ全く覚えてない、と。」
霊幻の言葉に頷く茂夫。
「呪いでも拾ったか…?」
と、足を組み、あれこれ原因を探る。
「師匠。」
「ん?どうした?」
バウムクーヘンを指差す茂夫。
「食べてもいいですか。」
「ああ、うん。いいよ。」
客から貰った厚切りのバウムクーヘン。ちゃんと茂夫の分もあったが、まだ手をつける前だったし、残してある方を食べればいいかと快諾した。
茂夫は見たことのないサイズのバウムクーヘンにちょっと興奮していた。バウムクーヘンに突撃し、壁をむしる。
ちょっと行儀が悪いが両手に掴んだバウムクーヘンを好きに貪った。
霊幻はそんな茂夫の後ろ姿を眺めながらハムスターみたいだな…と紅茶を飲みながら見守った。
「うっ…」
ばたりと茂夫が倒れ、霊幻に緊張が走る。
「どうしたモブ!?なんだ!?どこか痛いのか!?」
プルプルと震え霊幻へ手を伸ばす。
「み…ず…ッ!」
青ざめ頬をバウムクーヘンでいっぱいにしていた茂夫の呟きに、
「喉詰まらせてんじゃねーよ!!」
と突っ込みながら迅速に冷蔵庫からペットボトルを取り出しキャップに水を入れて茂夫を救った。
無事喉を通った茂夫はホッとして霊幻に礼を言う。
「思ったよりテンション上がってんだな。」
と茂夫を呆れながら見る霊幻。照れ笑いをして頭をかく茂夫。
「初めて見るデカさでつい……」
確かに子供にとってこんな建物みたいな大きさのお菓子は興奮するしかない。
「気持ちは解らなくないが。とりあえず気をつけて食えよ。」
はい。と返して、しかし腹が満たされてしまった茂夫は座り込んだ。あとで律にお土産に少しもって帰ろう、とバウムクーヘンを見て微笑む茂夫。


「さてお前の腹も満たされたようだし、問題に向き合うぞ。」
「はい。」
バウムクーヘンの隣で体育座りをして霊幻を見上げている茂夫。
「戻らないと色々差し支えがあるからな。」
頷く茂夫。
「つっても、何も手がかりがないんだよな……そういや超能力は使えるのか?」
言われて気付き、超能力を使おうとする茂夫。
「あれ。」
「どうした、使えないのか?」
「………なんか、変な感覚が。」
己の手のひらを眺める。いつもの超能力の感覚と違う。
茂夫は辺りを見渡し、ポーションミルクに目を付ける。
「そんなもんどうすんだ。」
霊幻が不思議そうに茂夫を見守る。
茂夫はポーションミルクを持ってくると少し離れ、ポーションミルクに手のひらを向けた。
見た目に変化はない。
「超能力が無くなったのか?」
心配する霊幻に「いえ…」と短く返してポーションを開けようとする茂夫。しかし固くて無理だった。
「師匠、これを開けてください。」
言われるまま開けると中身がミルクから、茶色く焼き色のついた物体になっていた。
「なんだこれ。」
困惑する霊幻。
「多分バウムクーヘンです。」
「…なんで?」
「さぁ……」
どうやら物質をバウムクーヘンにする超能力がついたようだった。そしてその他の超能力は消え、バウムクーヘンのみになったようだ。
「超能力を使うと全部バウムクーヘンに。」
「わかったからもうバウムクーヘン増やすのやめろ!」
角砂糖からティースプーンから近場にあった物の殆どをサイズがバラバラのバウムクーヘンに変えた茂夫。
「食べ放題だけど困りますね。」
「こんなにバウムクーヘン増やしてどうすんだよ……てか食器とかお前……」
戻せる気配がないので気落ちする霊幻。
これ以上バウムクーヘンにされたらまた買い足さなくてはならない。非常に迷惑だ。
「味が違う。」
「モブ?」
茂夫から備品やらなんやら遠ざけようとしていた霊幻が振り向く。
あちこちに散らばる元別のもの、現バウムクーヘンを一口かじっては次のバウムクーヘンへ移る。
「食い散らかすなよ。」
行儀悪いぞと説教しようと茂夫の前に来るが、茂夫がチラリと霊幻を怪しげな目で見た。
「…バウムクーヘンの味が違います。」
「は?」
「それぞれ、違う味になってます。しかもおいしい。」
モグモグしている茂夫を脱力感に襲われながら眺める霊幻。
「てかバウムクーヘン食い過ぎだろ。」
茂夫からバウムクーヘンを取り上げようとしたら、小さな手で指の端を掴まれた。
「…なんだよ。お前ちょっと食い過ぎだぞ。」
咎めるような目で見られて、霊幻は言い訳をする。正直食べ過ぎていると心配していた。
「……師匠は、どんな味になるんですかね。」
口元にバウムクーヘンの欠片を付けた茂夫が、ほの暗い目を霊幻に向ける。
「お前、なに言って……」
ゾクッと背筋が冷たくなる霊幻。
「角砂糖が今のところ一番なんですけど。師匠はもっと美味しいかもしれないですよね。」
「な、なんでそうなる……」
逃げるべきか迷う霊幻。弟子にバウムクーヘンにされて食われる最期なんてごめんだった。
「待て貴様、モブじゃないな!?モブならそんな物騒なこと言わねぇからな!」
騙されないぞと威勢を張るが、モブの小さな手を振り払えずにいる。
「師匠こそ、師匠のふりしたバウムクーヘンなんじゃないですか?」
「はぁ!?」
「だって、師匠がこんなに美味しそうに見えたことないですし。」
「知るかよ!てかバウムクーヘンにしてるのはお前だろ!?」
狼狽える霊幻。
「擬態してるバウムクーヘンを元に戻しているのかも。」
なんか凄いこと言い出したぞコイツ…と茫然とする霊幻。
「なんでそんな発想になるんだ…?」
弟子の思考が解らない。霊幻は混乱し始めていた。
「…だから、師匠も師匠の姿をしたバウムクーヘンなのかも。なら、食べてみてもいいですよね。」
と茂夫が手をかざしてくる。
「いいわけあるか!やめろ!!俺はバウムクーヘンじゃねぇ!!」
茂夫から離れ、逃げようとする霊幻。
「本物の師匠はどこだ。」
「俺だよ!!」
ふわりと浮遊し、霊幻の後を追う茂夫。
「なんだお前飛べるじゃねーか!バウムクーヘン以外にも出来るんじゃないか!」
「バウムクーヘンに戻すのと浮遊は出来るみたいです。」
ご都合主義だな!!と叫ぶ霊幻。相談所の中をドタバタ追いかけっこする。
僅差で躱し続けるせいで室内の色々な物が代わりにバウムクーヘンになっていく。
「なんだよこの悪夢はッ!!」
と叫ぶ霊幻と、茂夫の超能力が霊幻に当たるのは同時だった。


「すんげーやな夢見た…」
ベッドで体を起こし顔を両手で覆う霊幻。なんつー夢だよ、と額に浮いた汗を拭った。
「師匠、今日変な夢を見たんですけど…」
「ああ、俺も見たぞ。とびきり嫌な夢を。」
相談所の応接ソファーで向かい合って座っている二人は、数秒後に背筋が凍った。
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