紅茶一杯。



塩まじないとモブ
2017年3月22日 23:58

話題:二次創作文

※モブサイコ100
※おまじないネタ
※オカルト


「それを燃やす、またはトイレに流すってだけだ。やり方は簡単だろ。」
塩まじないって知ってるか?と霊幻に話を振られ、どんなのか尋ねたら一通り説明された。
「ただし、願い事の書き方には注意が必要だぞ、モブ!書き方は卑屈に書かなきゃダメだ。」
「ひ…卑屈……」
困惑する茂夫に、ドヤ顔の霊幻。
「例えば、お前のツボミちゃんとの恋を願うなら『ツボミちゃんと付き合えますように』はアウトだ。書くなら『ツボミちゃんとつきあえない』と書かなければならない。」
「ぼ、僕のツボミちゃんって…」
照れる茂夫に、そういう意味じゃないんだが…と言いかけて、止める。水を差す必要もないかと思ったからだ。
「……まぁ、とにかく。ここを間違えると、逆になるから気をつけろよ。あとこの『まじない』は相当強力だそうだから、やるなら安全対策はしっかりとな。」
安全対策、とはどんな事をすればいいのか。茂夫は首を傾げる。
「まぁお前ならどんなモン呼び寄せても大丈夫だろうけどな。ネットじゃ死人も出てるらしいぞ。自分に降りかかるだけじゃなく、相手に『何か』が降りかかる可能性もある。」
叶い方、失敗した際のペナルティ…その辺が曖昧なので危険なのだとか。話終えた霊幻は、茂夫の肩に手をおいた。
「…以上を踏まえて、今のまじないは忘れろ!そんなもんに頼ったって仕方ねぇ!男なら自分を磨いて相手を振り向かせるべきだ!」
と力強く言い放つ。
「ええっ!?」
自分から振ってプレゼンしてきたくせに無かった事にする霊幻に、ただただビックリする茂夫。
「だってお前、もし相手に災いが向かったらどうするんだ。危険だろ。」
とキッパリ言われてしまうと確かにそうだとしか言えない。
「な、だからこのまじないは忘れろ。そもそも、まじないは漢字で書いたら『呪い』だからな。『呪い(のろい)』と同じだ。そんな物騒なもんはしない方がいい。筋肉作って物理的に相手をゲットする方が健全で真っ当だ。」
それはそうだが、じゃあ今の時間は何だったんだ…という気持ちを飲み込んだ茂夫。



霊幻が珍しく変な時間に目を覚ますと、奇妙な気配に気付いた。何かが側にいる。体を起こしてみると、ベッドの向こう側を黒塗りモザイクのような固まりが浮遊していた。
顔がない黒塗りなのに、視線を感じる。なぜかこちらを見ていると思った。
(なんだこれ……幽霊か……?エクボの仲間か?)
霊幻がエクボを頭に思い浮かべると、それまで沈黙していた黒モザイクがチリッと鳴った。直後、頬を何かが掠めていく。
背後から音がして振り返ると壁は無傷で、何も刺さっておらず穴も開いてなかった。しかし霊幻の頬からは、うっすらと血が滲んでいる。
(今、明らかに何か撃たれたな……)
寝起きでうまく頭が働かないのと、非現実的な状況にいつもよりノンビリとした思考になってしまう霊幻。
いっそ夢だと判断して起床時間まで寝直したい。
黒モザイクはユラユラ微かに揺れている。霊幻はしばし黒モザイクを眺めていたが、あれから攻撃はない。
(モブ案件だよな……でもいきなり何か撃ってくるような奴だしな……今は大人しいが……)
黒モザイクを見据える。相手は沈黙を貫いていた。
(やっぱりモブより先にエクボに)
相談するかと思った直後にまた何か撃たれた。頬に二本目の赤い線が出来る。
(…なんでだ?なんで今撃ってきた?なんなんだ、俺は今すぐ逃げ出す方が賢明なのか?)
しかし動いたら今度こそ致命傷を負うかもしれない。
(多分コイツは悪霊の類だ。ならモブに溶かして貰わねーと俺の安眠はもうないだろう……しかし真夜中だぞ。)
そもそも携帯は側にない。どうしようも無かった。そして眠かった。
「よし、寝よう。」
霊幻は観念して寝ることにした。撃たれたらその時だ。もし自分に何かあってもきっと茂夫が敵は取ってくれるだろう。
そう思ったら、すんなり寝る選択ができた。そして黒モザイクは浮かんだまま沈黙し、その夜はもう霊幻に攻撃する事は無かった。



「師匠、その傷どうしたんですか。」
頬のみっともない傷をドーランで隠していたが、剥がれたのか茂夫に見つかってしまった。
「ああ、ちょっと昨日ミスってな。客商売だから、絆創膏を貼るわけにもいかんからな。」
ともっともらしい事を言うと茂夫はすんなり納得し、気をつけてくださいね。でその話は終わった。



帰宅すると黒モザイクは真っ黒な玉になっていて、まるで小さなブラックホールがそこに在るようだった。昨日と同じ場所で待機している。霊幻はまた撃たれないかと警戒しながら、黒玉から目を離さず上着を慎重に脱いだ。
正直気が休まらない。しかし茂夫に相談する事に躊躇してしまう。
(もし危険な奴だったら、モブが危ないしな…)
自分だって危ないが、大人だ。大人ならばある程度は自分で解決しなくてはならない。それが責任だ。
大人しい黒玉を常に警戒しつつ食事を済まし風呂に入り、寝る準備をする。
ベッドに入って、今日ももし自分がコイツに殺されたらモブが敵を討ってくれるに違いないと思うことでなんとか就寝した。案外図太いところがある霊幻である。



帰宅途中にスーパーに寄った。晩飯を何にするかで悩む。
豆腐コーナーを通り過ぎる時に、視界の端に気になる物を見つけた。視線を向けると、枝豆を使用した豆腐商品で、薄緑色だった。そして顔見知りに似たキャラクターがそこに。
思わず手に取り、なんだこれエクボに似てるな、と思った直後に鼻柱に何かが掠っていった。
「えっ…」
顔を上げ確認すると、黒玉が少し離れた場所で浮いていた。
「マジかよ…」
鼻柱に真一文字の切り傷がうっすら出来る。痛痒くて霊幻は顔をしかめた。
これはいよいよ、茂夫に助けを求めないといけないかもしれない。そう思いつつ、まず自分で出来ることをしてからだ。と決心した。


帰宅するとすでに黒玉は居た。意思は感じない。だから会話は出来そうにない。まるでロボットのようだった。
(エクボの事を考えると攻撃してくるんだよな…)
黒玉がチリッと鳴って耳の端を切った。
(やっぱりアイツ関係なのかもしれんな。)
それなら責任を取らせればいいから楽だと考える霊幻。反対側の頬に傷が増えた。



「なぁモブ。今エクボは居るか?」
霊幻に茂夫はキョトンとした。そしてエクボに声をかけようとして、ハッと目を見開く。霊幻が茂夫の表情の変化に気付いたのと同時に腕を引っ張られ、茂夫の背後に回された。
そして直後に何かの破壊音と爆風がやってきた。
「モブ?」
茂夫の背後から前を覗くと、例の黒玉が二人に対峙し、奇妙なオーラを滲ませていた。感情なんて感じたことが無かったが、今の黒玉からは怒りが溢れている気がした。
霊幻は狼狽し
「な、なんでここに…」
と呟いた。
「知ってるんですか、師匠。」
右手を黒玉に向けている茂夫が霊幻を振り返る。
「ここ最近コイツにストーカーされてたんだ。」
と言うと、茂夫が気付く。
「もしかして、最近やたら傷だらけだったのは…」
「ああ。アイツが原因だ。だから…」
関係があるだろうエクボに尋問をな、と続くはずだった霊幻の言葉は、ぶち切れた茂夫によって遮られた。
明らかにオーラが変わり、黒玉に向き直ると力を強めてぶち当て、真っ二つにした。
「あっ オイ、そんな簡単に…」
爆発でもしたらと心配したが爆発はしなかった。しかし真っ二つになった中からボタボタッと真っ赤な液体が流れ出た。
「うわっ!!」
霊幻は悲鳴を上げ茂夫の肩に掴まる。茂夫もビクリと体が跳ねた。
ブルブルと黒玉は震え「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」と何とも気持ちの悪い悲鳴を上げ、消えていった。赤い液体がまるで吐血のようで後味が悪かった。



「もっと早く言やよかったじゃねぇか。」
エクボは呆れている。霊幻は、まぁ色々あんだよ。と茶を濁した。
「あれ何だったんですか。」
茂夫に訊かれるも、霊幻も答えようがない。
「エクボが関係してるのかと思ったんだが。」
「知らねえなぁ…そんな悪霊。」
「でもお前の事考えると撃ってきたぞ。」
あの黒玉。と言う霊幻に
「あんなに撃たれるほど、エクボの事を何度も…」
と霊幻の傷を思い出す茂夫。
「いや、エクボに反応して撃ってくるんだ。モブの時は平気だった。」
「えっ。」
茂夫が反応する。
「とにかく俺様の知り合いでも関係でもねぇぞ。霊幻、テメーがなんか拾ったんだろ。」
と退屈そうにあくびするエクボ。
「モブに無反応でお前に反応するんだからお前関係だろ。」
と霊幻とエクボが問答している中、薄々と何かに気付いたらしい茂夫は顔色が悪くなってくる。
「ちなみに、アレが出たのは……いつからですか…?」
冷や汗を浮かべる茂夫が霊幻に問う。霊幻の返答に、さらに青ざめる茂夫。
「おいモブ、顔色悪いぞ大丈夫か?」
と心配してくる霊幻に、茂夫は膝の上に置いた手のひらをギュッと握った。
「師匠、塩まじない……覚えてますか。」
茂夫の意を決した自白に、頭のいい霊幻は察した。



霊幻に止められたものの気になっていた茂夫は、結局まじないを試してしまった。しかし本命(ツボミ)を使って巻き込むのが怖かった茂夫は、霊幻ならば大丈夫だろうと、霊幻相手にまじないを試行してしまった。
結果、霊幻は異様なものにストーカーされ攻撃される事になった。茂夫は真摯に謝罪し、霊幻も許した。
そもそもお前に余計なもん教えたの俺だしな、と苦笑し最後には逆に霊幻に謝られた。
「しかし、ああやって成就させるのか……やっかいだな。」
そりゃ死人も出るだろう。霊幻には悪運と、強力な味方が居たから事なきを得たが、一般人ならば難しい。
自分の知らないうちに禁止ワードが勝手に作られ、それに触れれば災いが降る。呪術主のみ考える事が赦される。潜在的な誘導方法だったのか、と霊幻は独りごちた。
「師匠…本当に、すみませんでした…」
しょげている茂夫に、霊幻は笑う。
「一般人を巻き込まなかった事に免じてやるよ。だが二度とするなよ。」
と茂夫の頭をポンと軽く叩くと、その話は終わりだと茂夫の肩を抱きラーメン屋へ誘った。





※塩まじないという言葉を知って、師匠に使えるかと調べたら思いのほか危ないおまじないですた。実行は自己責任で。


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