紅茶一杯。



母子幽霊と律霊
2017年3月26日 19:06

話題:二次創作文

※モブサイコ100
※律霊注意
※授乳注意
※先に謝るごめん。



「師匠、霊が憑いてますよ。」
茶請けの煎餅を片手に、茂夫は霊幻の背後を指差した。
「やっぱりな。そうだと思ってたんだ…最近、やたらダルいし肩こりが酷かったしな……モブ、溶かしといてくれ。」
と煎餅の袋を開ける霊幻。茂夫は口に入れた煎餅をボリボリ噛み砕きながら、指先を背後に向けたが、小首を傾げると手をおろした。
「ん?終わったか?」
「いえ……ちょっと……あの、師匠に憑いてる霊とちょっと話してもいいですか。」
何かが茂夫の興味を引いたようだ。霊幻は煎餅をかじりながら、許可した。
茂夫はお茶を一口飲むと席を立ち、向かいに座る霊幻の背後に回った。
なぜ後ろに回る(そのまま話せばいいのに)、と怪訝な顔になる霊幻だったが、あまり気にせず二つ目の煎餅の袋を開けた。
(特売で買ったけど結構うまいな…)
とボリボリ食べている霊幻の後ろで、茂夫はふむふむと幽霊と静かに会話をしていた。



「師匠に憑いてる霊は事故死した母親の霊で、一緒に死んだ自分の子供を捜してるそうです。」
話終えた茂夫がソファーに座り直し、霊幻に報告した。
「ふーん。」
あまり興味がないらしい霊幻。茂夫は続ける。
「最後にもう一度会えるまで、消えたくないって言われました。」
「協力しろってのか。」
霊幻の雰囲気から歓迎されてないと気付き、俯く茂夫。
「……泣いてたんです……すごく。」
同情したのか、と霊幻は溜め息をつく。
「相変わらず女の涙に弱いな、モブは。」
茶化すと「そんなんじゃないですけど…」と狼狽えていた。



「探すったって、手掛かりはあるのか。」
「会えば分かるって。」
茂夫の言葉に「は?」と明らかに不機嫌になる霊幻。
「会えば分かる?誰かに憑いてるってことか?それは絶対なのか?なぜ取り憑いてると解る。」
霊幻に気圧され焦る茂夫。
「いや、あの、道端にいる可能性も…」
「しらみつぶしにやれってのか。仕事でもねーのに。そんな暇はない!今は確かに暇そうに見えるだろうが、このあと予約客が居るんだからな!?当てもない探し物してる時間なんかねぇよ!」
と叱られ、しょんぼりする茂夫。
「ボランティアやるほど余裕なんかねーんだ。嫌なら他あたってくれ。」
と背後に向かって言う霊幻。
母親なら子供を引き寄せるくらいしろよ、と煽ると、直後に
「あっ。」
と茂夫が声を出した。
「なんだ?」
茂夫を見ると、少々焦ったように
「中に入っちゃいましたよ。」
深いとこに。と心配する。しかしこれといって特に異変は感じない。
「なんかオーラみたいなのが出てる……」
霊幻から霊幻とは違うオーラのような気配のようなものが強く出始める。
すると、相談所のドアがノックされ開いた。二人が視線を向けると、礼儀正しく律が入ってきた。
「あ、兄さん今大丈夫かな?」
学校関係での連絡があるとの事だった。律は茂夫の元に来て用件を伝える。
「……ところで、霊幻さんは何かあったの?」
と若干引いてる律が霊幻を指す。視線を向ければ霊幻は茫然とした顔でボタボタ涙を流していた。
「師匠!?」
驚く茂夫の声で我に返ったのか霊幻は自分に驚いていた。
「うおっ!?なんだこれ!?」
慌てる霊幻に、呆れた溜め息をつきながらもハンカチを差し出す優等生な律。なぜだか今日は霊幻に仏心を総動員してしまった。
「あ、ありが…」
礼を言い受け取ろうとした霊幻が一瞬フリーズする。
「霊幻さん?」
怪訝そうな律の、ハンカチを差し出した手首を掴む霊幻。
え?と思った直後、しっかりと抱きしめられた。
『やっと見つけた。私の赤ちゃん。』
「は?」
霊幻に愛おしそうに深く抱きしめられて、混乱する律。茂夫は何かに気付く。
「律、律の中に赤ん坊の霊が入ってる!!律に憑いてたんだ!」
訳が分からない律は困惑し
「え?ちょっと、あの、待ってよ…!」
と泣きながら頬ずりしてくる霊幻から必死に逃れようともがいていた。



「……そういうことか。ついに霊幻さんの気が狂れたのかと思った。」
説明を受けた律は隙あらば抱きしめてくる霊幻に肘で抵抗しつつ納得した。
霊幻の意識は今母親の霊に乗っ取られ、昏睡状態だった。先ほど煽ったせいで母親が奮起し、体を乗っ取る事で我が子を呼び寄せたらしい。本人はそう主張している。
「そろそろ師匠に体を返してください。」
茂夫が頼むも、母親は首を縦に振らない。母子共に事故に巻き込まれての死だった。もっと我が子と触れ合いたかった、と泣かれると茂夫は困ってしまう。
律は霊体で好きなだけ一緒に居ればいいと提案するが、母親はもう一度我が子に授乳したいと泣き出した。母親と赤ちゃんの一番のスキンシップなのよ、と。
「それを受け入れる訳にはいかないよ。」
渋る律に、さめざめ泣く母親をチラチラ見て茂夫は
「どうしても、ダメかな…最後なんだし……」
と母親側に立つ。律は溜め息をついた。
「兄さん、解ってないでしょ。今二人の外見は僕と霊幻さんなんだよ?そしてこの母親は実体で授乳したいって言ってるんだよ?」
誰と誰が何をするか、まだ実感できない?との律の言葉に、漸く自分が二人にとんでもない事をお願いしていると理解する。カッと真っ赤になり、俯く茂夫。
茂夫が理解しやすいようにと駄目押しで霊幻(母親)への抵抗も止める律。
途端に『わたしの赤ちゃん』と律を抱っこして自分の膝に乗せようと引きずり上げる。
律はあえて霊幻(母親)のしたいようにさせると、茂夫はもう、分かったから…律やめて……と真っ赤になって更に俯いた。
頭を撫でられていた律はしかし、抜け出そうとしたが無理だった。成人男性の腕力を甘く見ていた。
超能力を使えば楽だが、そこまでするには早いと思ってしまった。そして案外居心地が悪くないと思ってしまった。
(はっ…!?僕も赤ん坊に引きずられている!?)
霊幻(母親)に幸せそうに腹に腕を回され、赤ちゃん言葉で話し掛けられた事で我に返れた。
「なんの拷問だ……」
律はげんなりとして呟いた。



律は母親になんとか説得を試みる。しかし交渉は失敗する。しかも絵面としては霊幻の膝に横抱きで乗っている状態だ。せめてもの抵抗で律は腕を組んだが、そのせいで母親の唐突のキス攻撃を阻止できず苦い思いをした。
茂夫は茂夫で居たたまれない光景と律を巻き込んでしまった申し訳なさで落ち込んでいる。
「…もういいよ、律。交代しよう。」
「え?どういうこと?」
母親からの頬へのキスを両手で全力阻止しながら、律は茂夫の方を向く。
「赤ん坊を僕に憑依させるんだ。」
そうすれば、律がこんな目に遭う必要なくなるでしょ、と。
「そしたら兄さんが霊幻さんにセクハラされる事になるんだよ?」
心配する律に、茂夫は大丈夫だよと返す。
「それに、今は師匠じゃないよ。師匠だって困ってる。僕に赤ん坊を移せば、すぐに終わらせるよ。律が嫌な思いする必要はないんだ。」
それってつまり。と律は真っ青になる。
「兄さん、なにするつもりなの……母親の要望を飲むつもりなの……」
静かに頷く茂夫。
「元々は僕のせいだし。僕が同情して、さっさと除霊しなかったから。」
だから受け入れるというのか。律は愕然とした。
「そんなの、そんなの………」
律は言葉を失う。俯くと、泣かないでとハグして頭を撫でる霊幻(母親)。いやそもそも無理難題振ってきたアンタのせいだろ、と怒りがわく律。
「律。はやく僕に。もうすぐ予約客も来ちゃうし。きっと師匠も、僕の方がいい(マシだ)と思うし。」
と手を差し出す。兄を犠牲にして、逃げるのか。しかし元は兄が選んだことだ。ならば兄に最後まで任せるべきだ。
確実に言えることは、自分に責任はないということ。
律は手を伸ばす。しかし茂夫の手を取る前に止めた。
「律?」
「……赤ん坊は、僕を選んだんだよ兄さん……」
俯いて、霊幻(母親)にしがみついた。霊幻(母親)は優しく律を抱きしめ、慰めるようにその背中をあやした。



どちらに腹が立ったのか解らなかった。茂夫の「僕の方がいいと思うし」がキッカケなのは確かだ。あの一言が律を駆り立てた。
施術室に二人は居た。寝台に座る霊幻(母親)はワイシャツの前をはだけ、律においでと優しく呼びかける。
正直キッツイと律は顔をしかめるが、今更やっぱりバトンタッチできない。それに茂夫の顔を見ればまたきっと、意地を張ってしまうだろう。
「目隠ししてもいいですか。」
視界の暴力が酷いんで、と律が提案すると母親は
「どんなプレイなのよ。やめてよ。」
と笑い飛ばした。律のストレスゲージが溜まる。言ってるのは母親だが、見た目は霊幻だ。無駄にイライラしてしまう。
「坊や、おいで。ママよ。」
と両手を向けて優しい目をする。こんな霊幻は初めて見た。
観念した律だったが、霊幻(母親)の腕に抱かれると安心してしまった。ストレス源なのに、と困惑したがすぐに自分の中にいる赤ん坊の影響だと気付く。
頭を優しく撫でられると、幸福感に満たされた。そしてすごく愛おしい気持ちが溢れてくる。もうだめだ、赤ん坊に乗っ取られる。律はそう感じながら意識を手放した。



ぼんやりとした虚ろな目で、霊幻は自分の胸に吸い付いたまま寝ている律を見下ろしていた。
寝台に座り律を横抱きしている。支えながら、安心しきった幼い寝顔にちょっとだけ可愛げを見いだしたが、意識がはっきりするにつれ霊幻は顔面に冷や汗が滲む。
こうなった流れが全く解らず、動くに動けず、律を抱えながら、そして乳首を咥えられたまま、霊幻は首だけ動かしSOSを求めた。
声を出そうか悩んだが、そもそもこの現場を隣の部屋にいるだろう茂夫に見せるのか?と気付き、結局律を起こすことにした霊幻。
「律。おい律起きろっ。」
揺すると律の眉間にしわが寄った。
うっすらと瞼が開き、目が霊幻をとらえる。
「やぁ律君。よく寝れたかな。」
努めて明るく振る舞ったが、みるみる真っ赤になっていく顔色に見事だなぁと見入ってしまった。
直後に顔面に平手を打たれる。
「いってぇ!!」
と悲鳴をあげる霊幻から素早く距離を取るとドアから茂夫が飛び込んできた。
「律!師匠!」
そしてフリーズする。茂夫の表情は茫然としていた。
霊幻はワイシャツの前をはだけた状態で、顔面にはうっすらと赤い跡が残っていた。
律は茂夫を見てますます赤面し腕で口元を隠した。
「ようモブ。霊はいなくなったか。」
と霊幻の声に我に返り
「あ、はい。どっちももういません。」
と答える。どっちも?とキョトンとしつつ、
「よし、じゃあ除霊は成功だな! ……ところで、なんでこんな事になったのか教えてくれ。」
と冷や汗を浮かべ、引きつった笑顔で言った。






・メインが結局がっつり書けなかった。ちくしょう!だめな奴だ!



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モブサイコ100




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