紅茶一杯。



マリモとモブ
2017年3月29日 23:38

話題:二次創作文

※モブサイコ100
※本日の記念日
※師匠がマリモになった



「マリモか……なかなか悪くないな。」
霊幻は自分の緑色した丸い体を転がした。鏡はないが分かる。自分は今、見事にまん丸な緑色の綺麗なマリモになっていると。

辺りにはもう一つ小さいマリモが転がっていた。
「モブか?」
愛弟子だったりしないかな、と霊幻は声をかけた。しかしマリモは沈黙している。どうやら茂夫ではないらしい。
再び辺りを見渡すと湖の中のようだ。阿寒湖だろうか。瓶詰めではないらしい。
霊幻はホッとするやら寂しいやら複雑だった。
茂夫がいない。いつもならばどちらかの夢で、相手の夢にお邪魔しているか呼び寄せているかなのに。今の霊幻はひとりぼっちだ。
マリモ自体は辺りにゴロゴロしているが、茂夫はいない。
それを寂しいと感じてしまう。なんだか自分が弱くなったような気分だった。
「いかんいかん。良くない流れだ。もっと気楽にいこう。」
幸い自分の意思で転がる事ができる。霊幻は移動することにした。
水中はとても冷たく、平和で穏やかだった。上からそそぐ明かりは気持ちが良く、あちこちに転がっているマリモ達と意思疎通は出来ないが皆平和で幸せそうだった。良いことだ。
霊幻はゆっくりゆっくり前進する。今日の夢に茂夫は居ない。しかし別に良いじゃないか。毎回現れる訳じゃないんだから。うんうん、と頷く霊幻。外見からはまったく変化は無いが、本人としては頷いていた。
「しかし綺麗だな。」
マリモは綺麗な水でないと生きていけない。きりりと冷たい水温が気持ちいい。上から降る光は穏やかで幸せな気持ちにしてくれる。
ああ、ここは天国だ。
霊幻は心からそう感じ、こんな一生もいいな、と自ら動くのを止めた。
水流に身を任せると一層気持ちが良いのだ。
穏やかで、気持ち良くて、恐怖や悩みもない。なんて幸せな場所。
流れにのってコロコロ移動する。手足は無いが、今が一番自由だと感じた。
そんな霊幻に、影が落ちる。
「ん?」
自分の周りが暗くなり、直後に水中が荒れた。大地震でも来たのかと霊幻が怯えると、体が引っ張られるような感覚が襲った。
バシャリと音がして、体がグッと重く感じる。息がうまく出来なくて苦しい。
目を開けると、巨大な目が霊幻を見ていた。
「師匠。こんなとこに居たんですか。」
探しましたよ、と巨大な茂夫が霊幻を見つめて言った。
「よぉモブ。なんだ、マリモになったのは俺だけか。」
あれ、じゃあこの声も届いてないのか?と霊幻が言うと
「頭に直接響いてます。」
と返ってきた。そして気付いた。茂夫の声も霊幻に直接響いている。だから、よくある巨人物みたいな聞き取り難い声じゃないのか、と納得した霊幻。
「お前でっかくなったな。」
「師匠が小さくなったんですよ。それに…」
凄く可愛くなりましたね。と照れる茂夫。まぁ確かにマリモは可愛いよな、と深く考えない事にする霊幻。まだだ、まだ慌てる時間ではない。霊幻は頭をもたげた不安と心配に蓋をし、無理やり押し込んだ。


「今の師匠は300円なんですね。」
小さな袋に入れられた霊幻を眺める茂夫。阿寒湖だと思ってた場所はショップの水槽だった。環境をなるべく近付けてあるようだ。まぎらわしいな、と紛い物で幸せになっていた自分を隠すように不貞腐れた。
袋には小さく丸いガラス玉がいくつか入っている。店員がオマケで入れてくれたのだ。水槽には無かったろ、と文句を言う霊幻に、綺麗で良いじゃないですか。間違えて食べるワケでもないですし。と言われ、ますます霊幻は不貞腐れた。
茂夫は帰り道に何度も袋を持ち上げて霊幻を眺める。
「どうした?」
と霊幻が聞けば、いえ別に。と嬉しそうに答える。
(まだだ……まだ大丈夫だ。)
そもそも今自分はマリモだ。物理的に色々無理だ、発展のしようがない。よし、と霊幻は不安と心配に心のガムテープを貼り足で踏み均した。



茂夫に用意されたガラス瓶に霊幻は居た。水はたっぷり、カーテン越しの太陽は良い塩梅だ。
だがしかし。
「これじゃまるでモブに飼われてるみたいだ。」
「実際そうでしょう。」
「律。」
振り向くと律が居た。律は組んでた腕をほどき、うわっ 自発的に動くマリモって怖いな。と呟いた。
「お前来ちゃったのか。そういや今回は俺とモブとどっちの夢だ?」
霊幻は水の中で律に話し掛ける。
「……多分、兄さんの夢ですね。霊幻さんにマリモになる願望がないのならば。」
「それだとモブが俺をマリモにしたい願望があると解釈出来るんだが。」
霊幻が困惑する。
「………兄さんの幸せそうな顔を見れば、分かりますよね。」
律は苦虫を噛み潰した顔をする。
「マジかよ……なんで師匠をマリモなんかに。」
「可愛いからじゃないですか。」
そりゃマリモは可愛いが。だからってな…と霊幻が話していると、律が気配を察して振り返る。
「兄さん。おかえり。」
「ただいま、律。師匠と話してたの?」
「う、うん。世間話をね。霊幻さん退屈そうだったから。じゃあ。」
そそくさと部屋を後にする律。
「ゆっくりしていけばいいのに。」
と茂夫は寂しそうだった。しかし霊幻に向き直ると
「師匠、ただいま。」
と穏やかな笑顔を見せる。
「おう。モブおかえり。」
返事をすると、照れ笑いになる茂夫。なにがそんなに嬉しいのかは分からないが、茂夫が満足ならばまぁいいかと霊幻は考えるのを止めた。
茂夫の夢ならば、悪夢にならないようにしてやりたい。茂夫の望むように。
「師匠、水かえますね。」
基本的にマリモとのコミュニケーションは少ないからか、茂夫はやたら水を替えたがった。そして手のひらに霊幻を乗せ、コロリコロリと優しく転がしたがった。
霊幻を手のひらで転がす時、茂夫はとても嬉しそうで幸せそうな顔をする。
端から見たら根暗なオタク少年だぞお前、と言いたかったが言えなかった。茂夫が幸せならば、それを自分がぶち壊しにしたくないからだ。しかし。
「お前、俺を転がしてその笑顔はないだろう。」
霊幻は茂夫の手のひらを転がりながら突っ込んでしまう。険悪になる突っ込みではない、これ位なら言っても傷付けないだろうと判断して。
「だって、転がってる師匠が可愛くて。」
「マリモだからな。」
「はい。可愛いです、師匠。」
「マリモだもんな。そりゃ可愛いよな。光合成するとこなんか最高に可愛いだろ。」
霊幻の中で赤信号が点滅しているし心の審判がレッドカードを高らかに上げているが、霊幻は目を逸らした。
「マリモの中で僕の師匠が一番だと思います。少なくとも僕の中では一等賞だ。」
「そうか……うん。良かったな。」
霊幻はもう爆発でもしそうだと焦っていたが、今の自分はマリモである。手も足もない。逃げることなど出来ないのだ。
(……あれ。もしかして……?)
「気付きましたか師匠。師匠はもう逃げも隠れも出来ないんですよ。これからずっと、僕にこうして転がされながら、光合成しながらマリモとして僕と生きるんです。」
「それがお前の願望なのか。」
霊幻が茂夫を見上げる。
「はい。でも、師匠だってそれを望んでいるはずだ。」
そんなバカなと笑って、笑みが消える。
「師匠、これは夢です。夢だからこそ自由なんだ。」
茂夫が真っ直ぐに霊幻を見つめる。夢だから。全て夢だから。
「本心を言えってか。お前、夢でまで俺に気ぃ遣ってくれんだな。」
呆れたように笑う霊幻。
「俺はお前を縛らないよ。もう決めたんだから。」
その言葉に茂夫は寂しそうな顔をした。
「んな顔させたくなかったんだぞ。」
霊幻は苦笑する。
「まぁでも、夢だからな。」
それにお前をそんな顔のまま目覚めさせたくねぇからな。と観念したように言うと
「モブ。あと何時間、何十分あるのか分からないが、残りの時間全部のマリモ生をお前にやるよ。」
そのかわり起きたらおしまい。いいな?と釘を刺し、茂夫も嬉しそうに頷いた。






・まとめ上手になりたいです。
マリモ師匠可愛いですよね。瓶詰めマリモ師匠をポケットに入れて除霊するモブとかちょっといい。
ポケットから取り出して、どうしますかとか師匠と相談するモブ可愛い。依頼人からは怯えられそうだけど。


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