「誕生日何が欲しいですか?」
島崎が誕生日を来週に控えた週末、天候の都合で運良く西浦の練習は休みになったもののまだ篠岡は恋人への誕生日プレゼントを用意していなかった。ならば希望を本人に訊くのがいちばんだと思いこの質問に至る。
「冬だったら手編みのマフラーとかお願いするけどなー、ちょっとまだ暑いな」
雨だというのに、いや雨だからか、駅前のハンバーガーショップはいつもより人が混雑していて9月の半ばを過ぎた今でも涼しさより中途半端な暑さを訴え、島崎がポテトをつまみながら言った。真面目なのかふざけてるのかわからないその表情に正面に座った篠岡も言葉を続けた。
「手編みのマフラー欲しいんですか?」
今度篠岡が浮かべた表情は、驚きなのか呆れなのか。ふふと笑いを浮かべていた。最終的には島崎の言葉を冗談ととらえたのだろう。
「編んでくれるの?」
そう尋ねた島崎もどんな答えを期待しているのだろうか。
「まさか、そんな時間あったらうちの選手たちのためにおにぎりの具考えてグラウンド整備して他校のデータまとめて球きれいにしますよ」
これは篠岡の本気。何よりも例え恋人でさえも部員の方が大事だというのは彼女の持論だし、いつものことであった。
「妬いちゃうね」
だから島崎がこう言うのも愛情の一部分。机に頬杖をついた島崎は目を細めて、愛おしいものを見るように優しく微笑む。何でも話せる友達みたいな恋人同士になりつつある2人の友達じゃ見れない馴れ合い。この表情はいつだって島崎が愛している人だけの特権だった。
「そんな君が好きなんですけど」
こうやっていつも真っ直ぐに気持ちを伝えてくる島崎に付き合い始めのころは篠岡もいちいち照れていたものだが、慣れとは恐ろしいもので今では笑顔で受け止められる。慣れて心に響かなくなったのではなく、聞く度に愛おしさの増す言葉だ。自分の全てを受け止めてくれるからこそ本音を吐ける。結局欲しいものには辿り着かなかったけれど、ここがどれだけ混雑して暑苦しい場所だとしても目の前にこんな人がいるだけでそこは世界でいちばん幸せな場所になる。
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仲良しカップルでいいじゃない
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