卒業式なんて思った以上に退屈。いや、想像通りか。校長の話は長いしPTA会長の話は長いし同窓会長(って何しとる人?)の話は長いし、一体俺に何をしろと。

体育館から出て、あー終わった終わったと背伸びをする。
正直だるいと感じつつも寂しいとは思うが、それでもやっぱ泣くほどにまではならなくて、周りが泣いているとつられるどころか逆に気持ちが冷めた。

(晴れ晴れしい旅立ちの日やねんから笑っとればええやん!)


「謙也さん」

1人で勝手に良いこと言ったような気になっていた俺の耳に聞き慣れた声が飛び込んだ。
振り向けば、俺より一回り小さい、それでもむかつくほどイケメンの可愛い後輩。
ただそのイケメンは若干歪められていた。
理由などはだいたい分かる。

「何人に告られたんや?」
俺がニヤニヤしながら訊くと、その眉間のしわは一層深くなって光は「何で」と訊き返してきた。
恐ろしいほどモテるこいつが卒業式に告られないわけがない。
「めっちゃ不機嫌な顔やでお前」
そう言って眉間を小突いてやる。
モテるのは良いことだが(いや、恋人としては良くないことやけども!)こいつといえばモテるのなんか全然よくない、俺には謙也さんがいるから十分だなんて恥ずかしいことを真顔で言ってのける。(こっちが恥ずかしいっちゅーねん!)

「2人」
「なんや、もっといっぱいかと思ったら2人かいな」
もっとこう、5人や10人という数字を想像していた俺にとっては間抜けた数だった。
「今外に出てきたばっかやで。隠れとったんすわ」
ああつまりこれからもっと告られる予定ですか。俺なんて告白のコの字も見えないくらいに女が寄り付かないのに。まあ光がいるから十分(って結局こいつと同じ事を言う自分も大概恥ずかしい!)だから何の問題もないけれど。

「なんやお前、わざわざ俺に会いに来たんかいな。かわええやっちゃなあ!」
隠れていたということはわざわざ俺のために外に出てきたということで、まあそういうことなのだ。俺は目の前の頭をよしよしと撫でてやる。
「かわいいんは謙也さんやろ、あほ」
(かわいないわ!)と心の中で叫んだけれど、俺の手を振り払いながら言う光の表情を見るなりそれを口に出すのをやめた。いつも強気な光の中に俺はほんの少しだけ弱さを見た。

「これ渡しにきたんすよ。部員から」
さっきから片手を後ろにして何かを持っているなとは思っていたが、まさかこんなベタなものがくるとは。それは小ぶりの花束だった。
「それだけ?」
花束はおおきにと受け取ったが、俺は光からまだ大事なものを貰っていない。ベタなものこそ嬉しいと言うが、花束なんかよりもっとベタで大切なもの。
「卒業おめでとうございます謙也さん」
そんなイケメンに真顔(しかも上目遣い)で見つめられたら俺もときめかないわけなくて、ああこいつが愛おしい。

普通の公立中学からの進路なんて人によってばらばらで、確実に目前の恋人と会う機会は減るだろう。
「寂しなるなあ」
「ほんまやで」
俺がぼそっと呟いた言葉に光は随分と素直な返事をよこしてきた。こいつは絶対に、せいせいするだの、寂しいんはお前やろ的なニュアンスで返事すると思っていたのに、さっきの態度といい今日の光はどこかいつもと違っていた。

「何で謙也さんあと1ヶ月遅く生まれてくれへんかったんや。そしたら学年一緒やったのにな」
どんどん尻すぼみになっていく言葉に、俺は気づいた。
(こいつ、俺がおらんくなるんほんまに寂しいんや)
いくらいつも生意気でも後輩は後輩で、年下なのだ。時折こうして見せる可愛さに実感させられる。

俺はまたさっきのように光の頭を撫でてやったが、今度は振り払われなかった。

「そんな泣かんでも俺はどっこもいかへんやんか」
「泣いてへん!」
(泣きそうな顔で何言うとるねん)


この子には俺がついとってやらなあかんと、珍しく先輩らしいことを考えた。



―――――
かっこいい財前くんも好きだが可愛いほうがもっと好きです



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