3月16日23時54分


風呂を出て髪を乾かし、部屋に入って時計を見た途端にしもたと思た。もうこんな時間や。ちょっと寒かったから言うていつもより長く風呂に浸かるんやなかったわ。
ベッドの上に放置された携帯をとって、すぐに着歴を開く。電話帳なんか開かんでもこんなもん着歴で一発や。我が物顔で一番上を陣取った名前を押して発信する。

「なんや?」

なんやとはなんや。なんてもう思わんぞ。謙也さんはいっつも電話を出たらこう言う。もっとこう、他にもあるやろ。もしもしとか。ちゅーか、用がないと電話したあかんのかいな、恋人が。やけど俺は気にせん。

「んー、寝てました?」

もしかしたら寝てるかも、と思った。なんとも規則正しい生活を送っているこの人は日付が変わる前に布団に入るのが日課らしい。思いっきり夜型人間な俺からとったら考えられへん話や。やけど今日は、ほんの小指の爪くらいの可能性だけ起きとるって自信があった。やってこの人意外にもロマンチストやから。

「起きとったで」

ほらみろ。声は少しばかり眠そうやけど今起きたと言う感じではない。

「よかった」

まあ寝とっても今日ばかりは相手してもらうからな。ロマンチストの恋人はまたロマンチストっちゅーわけや。俺はアンタにどうしても言わなあかんねん。一番にな。

「まだあと5分あるけどな」

苦笑まじりの声。なんやわかっとったんかいな。やっぱ意識しとるところがロマンチストっちゅーか乙女っちゅーか。でも5分前に電話を掛ける俺も十分…もうええわ。自分で自分ロマンチストとか何やねん。
俺は「うん」と言って話を続ける。

「やってぴったりやったら誰かに先越されるかもしれんやん、そんなん嫌ですわ」

謙也さんは友達が多いからきっと日付が変わった瞬間に祝いメールがいっぱいくるんやろ?そんな中で一番になれる自信なんかないから俺はフライングするねん。

「お前可愛えなあ」

俺が5分前に電話を掛けた理由を悟った謙也さんは言った。その声が苦笑でもからかうような声でもなく、あくまで愛しいものを愛でる声なもんやから、逆にむかつく。可愛ないし。

「起きて待っとる謙也さんのが可愛いっすわ」

ほんま、可愛いんは謙也さんやわ。俺からの電話を待っとったかは知らんけど、友人からのメールを期待してこうやっていつもより遅い時間まで起きとくとか、可愛すぎるやろ。謙也さんは電話の向こう側で「うっせ」とか言っとる。ほんまのことやのにな。

「あ、ちょっと謙也さん黙ってください」

謙也さんは「はあ?」と言ったが、すぐに状況を理解したのか「ああ、」と言って黙ってくれた。
あとほんの少しで謙也さんの誕生日。どうせやったらぴったりに祝いたいやん?いらん会話して気付いたら過ぎとったとか嫌すぎるわ。
やからもうちょっと。

3、2、1

「誕生日おめでとうございます、謙也さん」
「おん、ありがとう」

静かやった受話器に向けて、精一杯の俺の優しい声を意識して、謙也さんに届くように。

「謙也さんめっちゃ好き」


この人を好きでいる間はどうしてもロマンチストなんか卒業でけへんと思った。



(そっちも負けんくらいの優しい声で、俺もや、なんて言ってくるから俺は、)



―――――
謙也くんお誕生日おめでとう!
光謙は2人とも可愛い。



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