「なんでこんな暑い日に俺が」
そうだ。こうなった理由は神楽と新八が海に行きたいーだの、お通ちゃんのライブに行きたいーだの言い出したからじゃねェか。
「なんで俺がこんな暑い日に」
金がねェのはいつもの事だし?世間の学生は夏休みで浮かれる時期だけどよォ。
俺達はニートみたいなモンだからね?常に夏休みだからね?
「こんな暑い日になんで俺が」
自分の小遣いが欲しいならどっかでバイトなり何なりすりゃいいんだよ。そうだよ。何で俺が給料じゃなくて小遣いやる為に稼がなきゃなんねーんだよ!
「なんで一人で海の家ェェ!」
「銀さん。せっかく仕事わけてやってんだからさ、奇声発するとか辞めてくれないか」
そう。俺は給料でなく小遣いをたかって来るバカちん共の為に長谷川さんのバイトを手伝う羽目に。
しかもよりによってアイツ等の行きたがってる海って……。
「いやアル。仕事するくらいなら部屋でゴロゴロしたいアル」
「仕事で行くとかじゃなく旅行的な感じで行きたいんですよねー…」
海に行ったってどうせ泳げない上に日光に弱い神楽、最初は小遣いだったのに最終的に旅行を頼む新八。
あれ、これどんだけ考えても俺だけが働いてる意味分かんなくない?軽くイジメられてるみたいな、軽くイジメられてるみたいなァァァ!?
「そんなに嫌ならなんで来たんだよ。何だかんだ言って銀さんはやっぱ一家の大黒柱やってんだなァ。すげェよ」
「音無さんの間違いじゃね。めぞん的な一刻じゃね」
焼きそば担当の長谷川さんに、かき氷担当の俺。ヤル気満々の長谷川さんに、そのヤル気を奪う不のオーラを出した俺。
そりゃ客が来る訳もなく、焼きそばは焦げて行くばっかりで、氷はあるのに練乳やシロップがなくなって行くばかりで。
「銀さんコレヤバいよ!ちょっとはヤル気出してくれよォォ」
「もう無理アル。俺もう無理アル」
「アルじゃねェから!声出せ!手動かせ!声出せ!」
夕方になって張り切り出した長谷川さんの海の家が儲かる訳もなく、儲からなかった奴が金をくれる訳もなく。
「で、日焼けしただけで帰って来たアルか」
「長谷川さんと銀さんの二人っていうのがね。まだ長谷川さん一人の方がマシだったんじゃないですか?」
一家の大黒柱になれたらどんなに良かっただろうと思う。コイツらが俺を敬ってたらどんなに可愛かっただろうと思う。可愛げの欠片もねェよ?定春の方がまだ可愛げあるわ。いや、マジで。
「オイィィィ!定春ゥゥゥ!お前どこに小便垂らしてんだァァァ!」
「あぁ、今日暑いから散歩嫌がったから連れて行かなかったヨ。ゴメンネ銀ちゃん」
どいつもコイツも可愛げの欠片も無かったわ。年頃の奴っていうのは皆こんなモンなんかね?母ちゃんの気持ちが今なら分かる。今なら代弁出来るわ!母ちゃん居た事ねェけど。
「明日も海の家行くんでしょ?姉上も誘っていいですか?」
俺は帰って来た時に、玄関に置いてあったビニールシートが半分飛び出してたでっかい鞄を思い出した。
「私日焼け止めが欲しいヨ。UVカットのヤツがいいネ」
風呂上がりの体にさっきから塗り込んでいるのを良く見たら日焼け止め。ちなみにUVカットだ。
「別に銀さんに一人で働いてその小遣いくださいって意味で言ってたんじゃないんですよ」
「旅行に行きたかったのはホントネ!でもちょっとイジメてやろうと思っただけアル」
やっぱり俺はイジメられてたらしいが、そんな事は今日は置いといてやる。とりあえず今日は、だ。
「おい、ちゃっちゃと用意しろ。行くぞ、旅行」
荷物を詰め始める。使う事は二度と無いと思っていた様なでっかい鞄に、三人分の荷物を。
「え、何言ってんですか。銀さん。こんな時間から?夜ですよ?行く場所も泊まる場所も…まずお金も交通手段も無いですよ?」
やっぱりコイツはぱっつぁんだ。毎度の事ながら俺の計画をことごとくツッコンで来やがる。Sなのか、お前が本当のSなのか。
「まずはマイカー、もしくはレンタカーを用意するよろし。後は行き当たりばったりぶらり旅で視聴率はとれるアル」
その点神楽は話が早い。バカだからどんどんバカな方向にしか話が進まねェ。バカだから。
「新八、お妙連れてくんならさっさと連れて来い!神楽も酢昆布いんなら今の内だぞ!」
「あ、あはははい!姉上に電話して来ます!」
「大丈夫ネ!三週間分は胃の中に納めといたアル!」
ドタバタといつも以上に騒々しくなった俺達万事屋は、お妙とすぐに合流し、一時間後には家を飛び出していた。
お妙がゴリラに用意させたパトカーで、バカみてェいにバカみてェな歌を歌いながら。
「銀さん!僕こんなに楽しい旅行は初めてです!」
「私なんてまともな旅行は初めてヨ!」
「一見ちゃらんぽらんの人の方がサプライズには強いのかしら」
バカみてェに興奮する三人を他所に、俺は重要な事を思い出しバカみてェに歌を歌える気分じゃなくなった。
「……金ねェんだった」
その後、顔面が腫れ上がった俺だが、ガソリンがもつまでの果てなきドライブで許された。
今回はちゃらんぽらんの戯れ言で終わったが、次は大黒柱としての威厳を見せてやるわ。音無さんの底力を見せてやるわ!
END