明確な意思を持って触れてくる時のそれとは違う指の動きに、ああまた寝惚けているなと思った。


――だから抱いて ちゃんと抱いて この体に残るように 強い力で――


自分がじゃない、背後から自分を抱きすくめたまま、未だ眠りの中に居るのであろう恋人が。
眠ってしまう前にしていた色々と、今のこれと、同じ行為のはずなのにまるで別人にされているかのようで。
むしろ別人にするようにされているのかも知れない。今迄に彼が自分以外の人にも触れてきた事は知っている。
こうして彼と関係を持った今でも…それは咎められるものではない。彼を縛る権利なんて、自分には持ち得ない。

今、彼がまどろみの中で抱いている相手が誰かなんて、わからない、わかりたくもない、けれど。
唇を滑る彼の指に、声無くその動きだけで名前を呼ぶと、涙がひとすじ落ちて指を濡らした。

「…は、がねの…?」

落ちた涙の道筋を逆さに辿って拭われながら、まだ寝起きの声で呼ばれたのはそれでもちゃんと自分の銘で。

「…寝てたんじゃ、なかったの」
「寝ていたよ、でも君が泣いているから」
「ん、欠伸しただけ」

背を向けていたのが幸いした、今はとても見せられる顔はしていないだろう。
このまま誤魔化してしまえばいい。こんな気持ち、彼には知られたくない。
涙を拭ったその指で髪をかき分けられて項に落とされるくちづけに、漸くいつもの触れ方だと思った。
せめてこうしている間だけはどうか、彼がちゃんと自分だけを見て、抱いてくれますように。

…なんて、身勝手なんだろう。誰にも言わない、言えない願いは、それでも思うぐらいは赦されるといいのだけれど。


話題:二次創作文