いつもの嫌味に屈託のない笑顔を返す恋人に、すっかり怒る気を削がれる自分がいた。


――ただ何もしないで 迷ってみても 意味はないさ――


「ちゃんと聞いているのか、鋼の…全く、君はいつもそうやって無茶ばかり」

「まあね、正直無茶なのはわかってるよ。でもさ、可能性は全部試したいんだよ」

「だからと言ってね、死に急ぐような真似をしなくてもいいだろう?」

「ね、大佐。俺に…俺たち兄弟に、可能性をくれたのはあんただよ」

ああ、確かに彼に可能性を示唆したのはこの私なのだ。
それが単なる好奇心だったのか、それとも庇護欲だったのか…今となっては知る由もなく。
それでも彼は一つの可能性をものにし、そして現在が在る。

「死に急ごうなんて思ってないよ、むしろ生き急いでんだ。生きてる間に、できる事は全部やっておきたいんだよ」

これだ――ずっと先を見る、見ようとする、この目に惹かれた。
そしてその視線の先を見てみたくなったのだった。

「そのためには…アルの身体も早く取り戻してやらなきゃな」

それまでは笑っていたのに、そう言うと少し真剣な顔になって。

「周りのさ、誰が何言ったって気にしない…俺はあいつのためならなんだってするし、できる」

「強いな君は。若さ故か」

「ばーか。違ぇよ、兄貴だからな、俺は!」

そう言ってまた笑うと、くるりと踵を返して鋼の掌をひらひらと振った。

「…じゃあまた、無茶しに行ってくるから」

「ああ、気を付けて」

「ま、あんたのこともね、好きなんデスケド」


ドアを閉めながらそう言うと、返事をさせる隙もなく走り出していった。全く…気は確かか?


話題:二次創作文