どうか今は彼の見る夢がしあわせなものでありますように。


――ただ同じときに遭えた幸運を繋ぎたいだけ――


「ごめんなさいエドワード君、今大佐居ないの。きっと仮眠室ね、急ぎなら起こしてしまってかまわないから」

最近はこの東部の田舎でも、レジスタンスの動きが激しく、久方ぶりに訪れた司令部は最早ここでテロが起こっているんじゃないかという慌ただしさだった。
久しぶりに顔を合わせた司令部の面々もどこか草臥れた様相で、司令官に至っては仮眠中だという。
この様子ではきっとまた何日も家に戻る時間も無く、司令部に詰めていたのだろう。

中尉の手伝いをすると言う弟をその場に残し、司令室から離れた棟にある佐官専用の仮眠室へと向かう足取りは軽い。
いつもなら、顔を合わせると悪態をついてばかり。まともに口をきくどころか、目だって合わせられない。
恋人ほど大人ではない自分は上手く気持ちを伝えられなくて、どうしても意地を張ってしまうのだ。
自分だってただ静かに恋人の傍に居たい気持ちの時もある。しかし今日は…なんせ相手は眠っている。これは好都合じゃないか。


「失礼しますよ、っと…」

やがて着いた部屋のドアのノブを静かに回して開く。なぜか息まで止めてしまう自分がおかしくて。
細く開けられた窓際には小さなコップに生けられた蓮華の花。風が薄いカーテンを揺らして、その向こうの恋人の姿を隠す。

(…寝てる、よな?)
現場の様子やテロの速報を伝えるラジオが小さい音量でかけられたままの部屋で、うつ伏せになって眠る恋人は静かな寝息を立てていた。
いつもなら――ベッドを共にしていても、決して彼が先に眠ってしまう事は無い。自分が目を覚ました時にも、必ず先に起きている。
普段なら見る事のない寝顔に少し満足すると、備え付けのデスクから簡素な椅子をベッドサイドに引き寄せ、自分の報告書を読み直し始めた。
しかしこの環境にどうしても集中できず、報告書を早々に放り投げるとその寝顔を覗き込んだ。

(こいつほんとにきれいだなー…っていうか、か、かっこいいっつうの!?)
目を閉じていてもその整った顔立ちは崩れる事無く、むしろ作り物のように美しく見えた。陶器のように肌理細かな肌に鴉の濡れ羽色の艶やかな髪。
数多の女性達がこの男を自分の恋人にと躍起になるのは、彼の地位や金だけが目当てでもないのかな、と思うと少し複雑な気持ちになる。

こんなきれいなもの、誰だって欲しがるに決まっている。


話題:二次創作文