一は全、全は一。それならば――例えばその皮膚でさえ、お互いを遮るものなど何一つ無くなって、溶け合ってしまえれば。


――Everything will be one with the space, and the space will be one with everything――


(もう、いらない、のに)
頬を滑り、胸を滑り、腰を滑り、背中を滑る。まるでお互いの境界線を確認するような作業を繰り返す指がもどかしい。
そんな作業に翻弄されてしまう事が悔しくて、戒めようと手を伸ばしても、のらりくらりと躱されてしまう。
その様子に声無く笑う恋人を見上げると、今度はその指が瞼を押さえた。

「さっきから何を考えている?ちっとも集中していないじゃないか」

こんなに近くにいるのに、そう耳許で囁かれながらより深い処に与えられる熱に、それまでの考えを綯い交ぜにされる。

「や…ちが、くて…っ」

その思考でさえ、溶け合う事はないのだろう、それがとても悲しくて。身体はこんなにも深く繋がる事ができるのに。
同じものでできているのに、けれど混ざりあってしまう事は決してない、なんて。だから…

「このまま、とけて…っ、ひとつに、なってしまえれば、って」

まるで眼球が溶けてしまったんじゃないかと思う程に、瞼の下が熱い。言葉にしてしまえば悲しみはその輪郭をはっきりと持って。
今更両の手で顔を覆ってみても、もう遅い。溢れる涙を塞き止める術は無かった。

「それは…どうして?」

別人のようだ、と思う。意地悪く囁いていたその口で優しい言葉を紡ぎ、意地悪く身体を這っていたその指で優しく髪を梳く。
頬や肩を撫でるその手からは、先程までの性的な色はすっかり抜け落ち、まるで愛し子にするそれだ。
一番に考えている事は、一番に考えていたい事は、弟の事なのに…それなのに、どうしてかこの男の事が好きで堪らなくて。
ただ嗚咽を漏らすしかできなくなった自分を、急かす事なく優しく撫でるその手に、それでも心は揺さぶられるばかり。

「…あんたの事が、好き、なんだよ」

噎び泣く合間にそれだけ告げると、包み込まれるままその胸に顔を埋めた。
隙間無くぴったりと肌を合わせれば合わせる程に、お互いの境界線が際立って、自分とは違う早さで脈打つ鼓動に不安を煽られるのに。

「君とひとつになれるなら、それは素敵な事かも知れないね、でも」

漸く口を開いた恋人がゆっくりと言葉を紡ぐと、声帯の振動が身体に伝わってきて、その事になぜだか酷く安心する。

「すっかりひとつになってしまったら、こうして君と抱き合う事もできなくなってしまうだろう?」

それは寂しいなぁと惚けたように言うその声に、くすくすと笑うと身体に伝わってくる振動に、胸を締め付けられる。

こんな気持ちは、知らない。


話題:二次創作文