話題:二次創作小説
夢ネタ。
興味があるかたは続きへ。
ふわり、と舞い降りた雪に、かじかんだ両手に息を吹き掛けていた少年が顔を上げた。
「降ってきちゃったよ…」
ぼやく声は、白い息を伴って。
月の無い夜空に似た漆黒の瞳は、灰色の空を睨みつけていた。
「ったく。早く来いよ、馬鹿兄貴」
寒いんだから。と、背中を向けていた建物を振り返る。
この街で一番大きな図書館。
最早、本の虫だと言って良い程に本を読み耽る兄へ、聞こえないとしても悪態をつく。
でないと、酷く寒いのだ。
体が、ではなく、心が。
「……早く、帰ろうよ」
今日は、一緒に帰ろう。と言ったのは兄からだ。
特別な日だから。と。
何の日だから判らなくて首を傾げたが、兄はただ笑っていただけで、何も教えてはくれなかった。
だから学校終わりに、こうして図書館に寄ったのだ。
友人たちと約束があったが、それを断って。
なのに。約束の時間になっても、兄は来ない。
溜息を吐いて、傍にある時計台を見上げる。
時間は、午後六時半。
もう、三十分は待ってる。
「……帰ろ」
そう言って、しかし、足は動かない。
もう、何度も帰ろうと言っても、彼はそこを動こうとしない。
あと少し。もう少し。と、心の中で呟いて。
「……馬鹿兄貴」
「それは、酷いな」
けれどいよいよ我慢出来ずに、ふて腐れた子供の様に吐き捨て足を踏み出そうとした彼の背に、声がかかった。
少し弾んだそれにゆっくりと振り返れば、兄が苦笑で立っていた。
右手を後ろに回して、肩を弾ませて。
「――っ遅い!寒い!お腹すいた!」
「ごめんごめん。ちょっと、手間取って」
キッと眉を吊り上げる弟をなだめながら、彼は指先が赤く染まった手をとった。
「帰って、良かったのに」
「……一緒に帰ろうと言ったの、兄貴だろ」
「――うん。そうだったね」
ごめんね。謝る寸前、一瞬だけ眉を潜めた。
それに気付き、けれど何も言わない弟の手を握って、後ろに回していた手を差し出した。
「はい。プレゼント」
「……え?」
薔薇の花束を前に、彼はキョトンと兄を見上げる。
自分と同じ漆黒の瞳は、何処までも優しい。
「今日は、"家族"になった日だから」
「――」
あれは、五年前。
一人の子供が、雪の中に居た。
「言っただろ?"今日"が、君の誕生日だって」
だから、プレゼント。
優しく微笑む兄は、彼の手に花束を握らせ歩きだした。
その反対の手は一緒に、コートのポケットに入れて。
「義母さんが、ご馳走を作って待ってるよ」
暖かい温もりに、彼はくしゃりと顔を歪めた。
花束を握り締め、兄の手を握り返して。
うん。と、震える声で頷いた。
「はい」
「?」
鼻孔を擽った香りに、書類を睨みつけていた彼はキョトンと顔を上げた。
「なんだい、忘れたのか?」
苦笑の兄と、花束を交互に見て。
デスクに置いていたカレンダーを見る。
「……あ、」
そうして、小さく声を上げた。
「誕生日、おめでとう。ライカ」
「……ありがと」
毎年渡されるのは、暖かい温もりと笑顔と、三本の薔薇の花束。
おそらく、これからもずっとそれは変わらぬ、兄の優しさ。
「……ありがと、兄貴」
ありがとう。
『愛しい君に花束を』
(産まれてきてくれた君へ、愛しているよ。と)
夢主のハピバネタ。
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