紅茶一杯。



無かった事にする師匠B
2017年3月1日 18:36

話題:二次創作文

※モブサイコ100
※モブ霊注意
※とても長い注意



怯えるモブを公園に連れ込み、ベンチに座らせた。
「肉まんとあんまんどっちがいい。」
と聞くとモブは震えながら首を振った。完全に声の掛け方失敗したなと反省する師匠。
「じゃあ半分こな。」
と肉まんとあんまんを割る。モブに無理やり持たせると、怯えつつ礼を言った。
「飲み物買い忘れたな。モブ、お前なに飲みたい?」
師匠の問いに、目をキョロキョロさまよわせている。
ビビってんなぁ、と後悔する師匠。
「あの、あの…なんで、僕のあだ名…」
モブは不安そうに師匠を見ている。不審者だと警戒している。
「あだ名?ああ、『モブ』のことか。だってお前、モブ顔だし。なに?本当にモブって呼ばれてんのか!?」
と笑い飛ばすと、モブはムッと不機嫌そうな顔になる。
「いやぁすまんすまん。悪かったって。お詫びに飲み物奢ってやるから。」
そう言ってモブを宥め飲み物を近くの自販機で買ってくる師匠。
半分になった肉まんとあんまんを食べていたモブは素直に飲み物を受け取り礼を言う。怒りは食欲に消化されたようだった。
腹が満たされたモブは、隣であんまんを食べている師匠を見上げた。
「…お兄さんは、どうして……」
自分に声をかけたのか。
モブの疑問はもっともで、しかし師匠は言えるわけもなく。
「この世の終わりみたいな顔してたからな。」
と告げた。その言葉にモブがサッと青ざめる。
「なんか悩み抱え込んでるなら聞いてやるぞ。どうせ行きずりの関係だ。」
「行きずり……」
缶を持ったまま俯くモブ。
「お兄さんには、多分…わからないと思います。」
あの時とは状況が違う。モブは自分と同じ超能力があると思って師匠の元にきたのだ。しかし会えなかった。
師匠が師匠だと知らないモブには、今の師匠はただの通りすがりの一般人だ。
「わかるよ。」
「え?」
「お前不思議な力があるんだろう。俺の友人に、お前と同じ悩みを抱えてる奴がいる。」
「えっ!?」
モブが食い付いた。
「そいつは身内を怪我させちまって、かなり苦しんでたよ。」
モブの目が驚愕に見開いていく。
「今のお前は、あの頃のアイツに似てる。だから解ったんだ。お前もきっと同じ悩みを抱えてるって。」
「ぼ、僕以外にも、超能力が使える人がいるんですか…!?」
「いる。そのうち会えるさ。超能力者同士の共鳴とかなんか、そんなので。」
手に持つ缶コーヒーを飲む師匠。
モブは感動にうち震えていた。自分だけじゃない。仲間がいるという言葉は、孤独を感じていたモブの慰めと救いになった。
「その人に会えますか?会ってみたいです。」
キラキラと期待の眼差しのモブ。お前だから無理、とは言えない師匠は
「いやぁ、今そいつは遠くに居てな。」
「海外ですか?」
「そうそう海外!だからすぐには無理だな。悪い。」
しょんぼりとするモブの肩に手をおく。
「まぁそんなに落ち込むな。よし、その友人が当時救われた言葉をお前に教えてやろう。」
と、かつて自分がモブへ向けた言葉を今度は自分からではなく、人伝としてモブへ伝える。
「すごい…!」
感動するモブ。
「誰が言ったんですか?」
「そいつの師匠だ。」
「いいなぁ……僕も、人間の師匠が欲しいな。」
「人間の?」
「あ、はい。猫の師匠なら居るんですけど。」
『猫の師匠』
師匠の知らない存在だった。
「野良猫なんですけど…あっ ちょうど来た。」
モブが師匠と呼ぶと、ミルクティー色の成猫がやってきた。とてもふてぶてしい目をした猫で、師匠を一瞥すると顔を背け鼻を鳴らす。
ベンチに座るモブのところまで来ると一旦止まり、身構えてジャンプした。
「すげー懐いてんなそいつ。」
モブの膝に乗った野良猫は我が物顔でくつろぎだす。
「ごめんね師匠。さっきの肉まん残しておくんだった。」
と撫でながら謝るモブ。匂いが残ってるのか、野良猫がモブの口元を嗅いで舐めていた。
「雑菌とか危ないから口拭いとけ。」
とティッシュを差し出すがモブは平気ですと受け取らなかった。
(なんだろう。なんかムカつくな…)
猫をしきりに「師匠」「師匠」と呼ぶのが面白くない。が、だからといって自分が師匠になると名乗り出てはいけない。
何の為に、誰の為に此処まで来たと思ってるんだ。揺らめきかけた気持ちを叱咤して立て直す師匠。
「なんで師匠なんだ。」
名前の由来を聞くと
「なんか、みんな師匠って呼んでるので…」
と返ってきた。そうか、なら良いや。と師匠の溜飲が下がる。
「お兄さん。…お兄さんの友達が帰ってきたら、会わせて貰っても良いですか?」
膝の猫を撫でながら言うモブ。その横顔を見てしまったら、断ることは出来なかった。
(俺が師匠になってやれないんだから、仕方がないよな…)


別れ際、モブはすっかり元気になっていた。手を振る姿に、昔を思い出して懐かしくなる。
きっともう元の世界には帰れない。やり直しなんだから、やり直せたんだから。師匠は歩き出した。
「この先、モブが居ない世界を生きるんだな……」
胸が痛むが、我慢しなくてはいけない。これ以上関われば待ってる先はバッドエンドだ。
「てか俺もうモブなしでイケない体になっちゃったんだよな。これから一生禁欲生活かよ……」
がくりと項垂れる背中が哀愁を漂わせていた。

結果をいえば師匠の体は過去に若返ってるせいかモブなしでイケた。だからといって嬉しいかというと虚しかった師匠。
「マジで俺の記憶以外なんにもモブが残ってねぇ…」
自宅のソファーに横たわり、自棄気味な師匠。モブからの電話は取らなかった。『海外の友達』は永遠に帰ってこないからだ。
モブが恋しい。師匠の知っているモブは今頃、何をしているんだろう。
(俺はもう、戻れないしな。向こうで俺はどうなってんのかな…行方不明者かな……)
ウトウトと眠気に誘われる。
師匠。と呼ばれた気がした。師匠の知ってる、モブのトーンで。
「モブ……ごめん。」
眠りに落ちる間際、師匠はモブに謝罪した。


「金が貯まった。」
貯金を下ろし、冒険家の準備をして。チケットはポケットに。
さぁ行くぞ、と自室のドアを開けたら、中学生になったモブが立っていた。
「は?どしたモブ。」
思わず声をかける。モブは旅行にでも行くような大きなリュックを背負っていた。
「お兄さん、僕を弟子にしてください。僕も連れて行ってください。」
師匠の顔からみるみる血の気が引いた。やっぱり、一分一秒でも関わってはいけなかったんだ。
またやらかした。師匠は絶望しショックで卒倒した。



(続く)


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モブサイコ100




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