紅茶一杯。



卵になった師匠と影山兄弟
2017年3月13日 18:51

話題:二次創作文

※モブサイコ100
※影山サンド失敗
※律がデレない…




霊幻と茂夫はその日、隣の市に出掛けていた。依頼人と会い、話を聞いて現場となる裏山に二人で出向く。
鬱蒼とした森の中、低級悪霊をついでに溶かしつつ進み、親玉である悪霊の元を訪れた。
除霊自体は簡単だった。しかし開始早々に霊幻が悪霊に喰われた。焦った茂夫がすぐさま悪霊を内側から弾き飛ばし、粉々にしてしまった。
てっきり中から霊幻が出て来ると思っていた茂夫は愕然とする。散らばってる悪霊の破片の中には、鶏の卵によく似た卵ひとつしか無かったからだ。
辛うじて残っていた悪霊の顔を踏みつけた頃には、茂夫の顔付きがかなり凶暴になっていた。
そのオーラに泣いて許しを請う悪霊から、霊幻の取り戻し方を聞いた。


茂夫からの説明を、こんな感じだろう。と律は自分の中でまとめた。
帰宅するなり律の部屋に直行した茂夫は、半泣きで両手には大事に卵を持ち、助けを求めた。

悪霊が言うには、その卵に喰った奴(霊幻)が入っており、孵化させないと出て来ないそうだ。
孵化には特殊な力が必要で、それは超能力で補えるとの事だった。
しかし、二種類の超能力が必要。つまり超能力者が二人必要で、まさに親鳥のように交代で超能力を注がなければならない。

面倒くさい。と口から出そうになった感想を、律はグッと堪えた。目の前の茂夫は顔面蒼白で、相当神経が弱っている。
これ以上の刺激を与えるのは良くない。
「だから律。一緒に師匠の卵を暖めて欲しいんだ。」
大事に大事に抱く卵は、本当に鶏の卵と似ている。
冷蔵庫の卵と混ぜたら見分けが付かない。
「僕の力じゃ、足りないんじゃ…」
律はまだ駆け出しの超能力者だ。ド新人だ。なぜ花沢さんやエクボじゃないんだろう、と疑問が浮かぶ。
「花沢君は学校が違うし、エクボは嫌がるし。それにエクボには体温がないから暖められないんだ。」
交代で育てなくてはならない。それには2人はそれぞれ適さない部分があり、律は条件を満たしていた。
「僕が部活中は、律が師匠を預かって欲しいんだ。転んで割れたら大変だから。」
真剣な眼差しで見られて、律は居心地の悪さを感じる。
「そもそも本当に、霊幻さんなのかな…」
正直関わりたくなくて、お茶を濁すように緩やかな抵抗を見せる律。それに気付かない茂夫は
「持ってみれば分かるよ。」
と律に卵をソッと渡した。
おっかなびっくりに卵を両手の中に受け取る。『持ってみれば分かる』とは、正にそうだった。
これは霊幻だ。霊幻新隆だ。律は驚愕した。
見た目はただの鶏の卵にしか見えない。しかし触ると、手に乗せると、これは霊幻新隆だと確信する。
何故だか律にも解らない。しかし『これ』は、確実に、霊幻新隆でありそれ以外では無かった。
「ね。わかるでしょ。」
律の様子から何故か得意気な笑顔の茂夫。
「律しか居ないんだ。」
と兄に頼られれば、律は悲しいかな受け入れてしまうのだった。


茂夫から卵ポケットを付け足した腹巻きを勧められたが断る律。しょんぼりする茂夫は可哀想だが、お年頃な男子にソレは酷だった。罰ゲームと同じだ。
なるべく暖かいようにと裏起毛のついた布で巾着をつくり、そこに卵を入れた。そしてポケットに入れる。
超能力の注ぎ方は茂夫とエクボにレクチャーしてもらい、加減を覚えた。
霊幻の為に何かするのは気が向かないが、自分のレベルアップの為だと思い込む事で律は自分を納得させた。

基本的に律は茂夫が卵を持ち歩けない時に代わりに預かっている程度だった。先に帰宅した律は茂夫が部活から帰るまで卵を預かっていた。
宿題も予習も終わり、暇ができたら不意に卵を思い出した。ポケットから巾着を取り出し、巾着から卵を取り出す。
この暖かさは自分の体温というより、卵自体から発せられていると感じた。
相変わらず卵はどうにも霊幻新隆で、勝手にドヤ顔が頭に浮かび律はげんなりする。
いつまでこんな事をしなきゃいけないのかと途方に暮れそうな気持ちを押し込む。
「はやく孵化してください。迷惑ですよ霊幻さん。」
律は両手の中の霊幻新隆に愚痴った。
卵が少しだけ淡い光を滲ませた。



「兄さん寝るとき卵抱いてるの?」
「うん。暖めなくちゃいけないからね。」
朝食中の会話。母親は台所で自分の作業に集中しているのか、二人の会話に気付いてない様子だ。
「律はしないの?」
「いや、まだ夜預かった事ないし…」
そういえばそうだったね、と茂夫。
正直預かったとしても一緒に寝る気はなかった。あの卵は霊幻新隆すぎるのだ。一緒に寝るなんて発想はなかった。
律は自分にその番が回ってくる前に孵化して欲しいと切実に願った。



「じゃあ律、お願いね。」
と茂夫は合宿の荷物を詰めたスポーツバッグを肩に掛けて手を振って出発していった。律は終始顔色が悪かった。一緒に見送った母親が心配していたが言えるわけもなく、大丈夫ちょっと眠いだけ…と誤魔化した。
初日から律は憂鬱だった。


合宿先から電話が来て、律は茂夫の報告や雑談を楽しんだ。そして最後に卵のことを訊かれて気が沈んだ。
『律、ちゃんと一緒に寝てね。』
茂夫の念押しは多分気付いているからだと律は察した。
添い寝に抵抗を感じている事を、茂夫は感じ取っている。
観念した律は夜ベッドに卵を持ち込んだ。
巾着越しなので大丈夫かと期待したが、思いのほか霊幻新隆で気分が沈んだ。
「霊幻さん、気が散るのでその『霊幻新隆』っぷりを抑えてください。」
などと、つい世迷言を発してしまう。そんな自分にもげんなりして、溜め息と共にさっさと意識を手放しにかかった。
卵はじんわりと熱を持っていた。


律はいやな夢を見た。夢の中ではデカイ卵が目の前にあって、律はそれをノックしていた。そして
「霊幻さん、出て来てください。」
と優しく声を掛けているのだ。
その声に応えるかのように卵は割れ、中からは成人済みの霊幻が一糸纏わぬ姿で出て来る。
しかし律の知ってる不敵でふてぶてしい笑顔ではなく、なんとも純粋で無垢な微笑みを湛えていた。そして律に抱きついてくるなり
「お母さん。」
と耳元で囁く。律は悲鳴と共に起床した。




(続く)


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