紅茶一杯。



呪いとモブ(7夜目)
2018年11月21日 21:42


話題:二次創作文

※モブサイコ100
※師匠の体の一部を回収する話
※長くなりました注意


今日で最後。ようやく終わる。茂夫は夢に着くなり辺りを見渡す。変わらない真っ暗闇にももう慣れた。
「こっち。」
後ろから声がして、振り返る。真っ白で淡い光を纏った、お餅のようなふくよかな人型が立っていた。と、ギョロリと1つ、大きな目玉が中から現れた。
「最後のゲーム、しよ。」
「うん。」
茂夫が頷くと、一つ目は自身の両手を合わせた。手の中には何か入ってそうな膨らみがある。
あそこに霊幻の最後のパーツが入っているんだと茂夫は身構える。やはり小さなパーツのようだ。
簡単に見付かったのはラッキーだった。
「おてぶしてぶし♪」
一つ目が歌い出す。合わせた両手をふらふら揺らしている。
歌い終わるのを待つ茂夫に一つ目は
「へーびのなまやけ、カエルのさしみ♪」
と不気味な歌詞を唄った。思いがけない歌詞にちょっと戸惑う茂夫。
「いーや、どっちだ♪」
歌が終わると同時に手を離して拳を作り、どちらの手の中に入っているか当てろと茂夫の前に出してきた。
どちらかに霊幻の最後のパーツが居る。茂夫は気配を探るが、一つ目のオーラが強くて感知できない。
「はやく。はヤク。ハやク。」
急かされて焦る茂夫。外す訳にはいかないというプレッシャーが余計に茂夫を焦らせる。
更に連日の寝不足で思考がボヤけていて、実は起きているのもしんどいのだ。
茂夫の選択を待つ一つ目は段々ニタニタと笑い出す。その笑顔がもう煽りにしか感じない。
「……こっち。」
感知出来なかった。完全に勘で選んでしまった。茂夫はその事に負い目を感じて、震える指で、目を逸らして居た。
「おおあたり〜〜♪」
一つ目の言葉に茂夫は手のひらを見る。一つ目の手のひらには、目玉が乗っていた。霊幻の目玉が。
ギュウッと心臓が掴まれたような痛みを感じた。一つ目は「は〜い。」と茂夫の手のひらに目玉を乗せてきた。
初めての感触にゾクゾクと背中に何か走る。が、潰さないようにと慎重に両手で持った。ここまで来て自分で台無しにする訳にいかない。
終わった。これで全部終わった。感動にうるりと目が潤む茂夫に一つ目は両手を合わせ
「おてぶしてぶし♪」
と歌い出した。
「えっ。」
合わせた両手をユラユラ揺らし
「へーびのなまやけ、カエルのさしみ♪」
「え、なんで……」
自分の手の中を見る。霊幻の目玉が1つある。
「1つしかない……」
「いーや、どーっちだ!」
茂夫は青ざめ、あわてふためき、一つ目に急かされて、カウントダウンに混乱したまま選んだ。
「おおはずれ〜♪」
「あっ、待って、ちょっと待ってよ!」
霊幻の片目が失われてしまう。焦りに涙目になる茂夫に
「あといーっかい。めだま、めダま、おいしい。」
と一つ目が煽る。つまり茂夫が外したら目玉は一つ目に食べられてしまうという事だ。その言葉に我に返り、茂夫は涙を引っ込めてキッと一つ目を見据えた。
「おてぶしてぶし♪」
歌が始まる。楽しそうに両手を振る一つ目をじっと見据える。失敗できない。もう失敗しない。確実に当てなくては。
「いーや、どーっちだぁ!」
茂夫はじっくりと見定める。頭痛も眠気も無視して霊幻の気配を、神経を研ぎ澄まして探る。
一つ目はニヤニヤと歯を剥き出して笑っている。沈黙の後、茂夫が一つ目を見た。
「………そこだ。」
茂夫が指差したのは、一つ目の拳ではなく、口。
一つ目はニィィと歯を見せると、カパァと大きな口を開ける。
「お゛お゛あ゛た゛り゛〜♪」
そしてそのまま霊幻の目玉を吐き飛ばした。茂夫は咄嗟に手を出し、霊幻の目玉を掴もうとする。
(あ、やばい。潰れるッ!)
手に力が入りすぎている。
(嫌だッ!)
目を瞑る。霊幻の目玉に超能力を向ける。目玉を守るために、バリアを纏わせた。
「はぁ、はぁ、」
グスッと鼻をすする。地面に倒れた茂夫の手の中にある霊幻の目玉は、綺麗な丸を保っていた。
「ううっ…」
安堵の涙が零れる。霊幻の揃った目玉を両手で優しく包み、その手を胸に当てると、ほっと息を吐く。
良かった。守れた。茂夫は泣きながら意識が遠退いた。


「やったなシゲちゃん。」
「…うん。」
涙の滲んだ笑みを浮かべる茂夫から、成功したことを確信するエクボ。
「最後は何だったんだ?」
「師匠の両目だった。ゲームはどっちの手に入ってるか当てるやつ。」
「そうきたか。でも無事に終わって良かったな。これでゆっくりたっぷり寝られるな!」
と笑顔のエクボ。
「うん…」
と返事すると同時に即寝落ちる茂夫。
数時間後、もう起床時間を過ぎていると起こしに来た律は爆睡する茂夫が全く起きず無反応なので、救急車を呼ぶか真剣に悩んでいた所を散歩帰りのエクボに止められていた。


学校の帰り、茂夫は相談所へ向かっていた。バイトの日ではないが、あの呪いは無事に終わったのだと確認しなくては落ち着けない。もし解除されていなければ、茂夫は直接バトルする覚悟だった。
「ようモブ。もう大丈夫なのか?」
何かしらに関わっている事は相談所で倒れた時に知っていた霊幻は、茂夫を労る。
「もう大丈夫です。すみませんでした。」
頭を下げる茂夫に、霊幻はそうかと返し、ちょうどたこ焼き買って来てたからお前も食えよと勧めてきた。
二人でたこ焼きをつつきながら、他愛のない世間話をする。
茂夫は霊幻の体が五体満足かを確認したかったが、たこ焼きに釣られて話し出せなかった。ので、霊幻をじろじろ見てしまう事になる。
霊幻は霊幻で、今日モブめっちゃ見てくんな…なんか憑いてんのか?と不安になる。
「お前ら…なんだその空気。」
と、呆れ顔のエクボが現れた。お散歩途中に立ち寄ったようだ。
「エクボ…!」
救いの手を見付けたかのような茂夫の目が、すがるように訴えている。聞きたいけど聞けないんだと。そんなもん自分で聞けよ!と思いつつ、エクボも茂夫に甘い。
ため息を一つ吐くと、霊幻の側に来る。
「よぉ霊幻。息災か。」
「なんだ急に。まぁ健康だが。」
なんなの?な顔をする霊幻にエクボは
「だとよ。良かったなシゲオ。」
と振る。茂夫はギョッとするが、霊幻が察した。
「なるほど。だからやたら見てきた訳か。大丈夫だぞモブ。なんの心配もないから。」
茂夫を安心させるために言うが、安心はしきれなかった。
まだ呪いが実行されていないだけかもしれないからだ。浮かない顔の茂夫に
「まだ不安なのか。どうしたんだ?」
と茂夫の様子を窺う。
「あの、今日最後まで居てもいいですか。」
伏し目がちで言う茂夫に霊幻は快諾する。
「今日は予約客も無いし、やることないけどな。」
と笑った。それはそれで好都合だ。
いちいち客を疑わなくて済むからだ。巻き込む事もない。
かくして、霊幻の終業時間まで茂夫は受付に居たり霊幻が預かっていた呪いの品物を除霊したりして過ごした。

「もう閉めるか。」
「えっ まだ30分ありますよ。」
外はだいぶ暗い。茂夫を送る事を含めて早く上がることにしたようだった。それに気付いていない茂夫は、やはり体調が悪いのではと不安になりながら片付けを始めた。
「モブ、ラーメン食うか?」
霊幻の声に顔を上げる。
「今日はバイトの日じゃないが、手伝って貰ったからな。」
奢ってやる、と笑う。
今日は客は二組でどちらも午前中、霊幻が一人の時だ。茂夫はたこ焼きを食べて呪いの品物をひとつ除霊
したくらいしかしていない。それも霊幻に頼まれた訳ではなく、勝手にやったものだ。(品物が霊幻の呪いの可能性を考慮して)
「いいんですか。今日なにもしてないですよ。」
「そうだな、だから今回は特別な。」
と、奢る気は変わらないらしい。それならばとお呼ばれする茂夫。
二人でラーメンを食べ、会計を済まし外に出る。
霊幻がラーメンを完食したのを見て、茂夫は体調不良の心配から抜け出せた。どこかを失っていないし、呪いも来なかった。ちゃんと昨日で呪いは解除されたのだと漸く安心した。


別れ際になり、挨拶を終え霊幻から数歩離れた瞬間、ぴたりと茂夫が止まる。
「モブ?どした?」
茂夫の様子を見に寄ってくる霊幻に
「…師匠、ちょっと手を貸してください。」
と手を差し出す。
「え?なんで?」
と言いつつ、素直に片手を出した。握手すると、そこから霊幻に自分の超能力を流す。霊幻にバリアを張るために。
「なんだ?なんかしたのか?」
キョトンとする霊幻。
「お守りみたいなものです。」
これで本当に安心できた。最初からこうすれば良かった。と茂夫は満足する。霊幻は不思議そうに自分の手を眺めていた。

別れたあと、布団に入ると少し怖かった。またあの悪夢に呼ばれるのではないかと思ってしまう。
「結局なんだったんだろう。あの呪いは。」
なにも分からなかった。本体にも会わなかった。どこで呪われたのかも分からずじまいだった。
見慣れた天井を眺め、そういえばと自身の手を目の前に挙げる。
さっき握った霊幻の手を思い出すとドキドキする。なんのドキドキなのか、茂夫は分からなかった。けれど、嫌な気分でも無かった。
その夜の夢は、心地よい花畑で暖かな日差しを受けながら眠るとても気持ちの良い夢で、久々の安眠を得た。

後日バイトで霊幻から同じ夢の話をされ、なぜだか酷くドキドキして恥ずかしさを感じたが、やはりこの動悸の意味が分からなかった。



(おわり)

終われたー良かったー。
入れたいの入れられなかった。ので下にオマケ。



【後日。】
渋る茂夫を強引に連れていくため、霊幻は茂夫の手首を掴み歩き出す。ラーメン奢ってやるから、たこ焼き奢ってやるから、とかなんとか宥めながら前を歩いていく。諦めた茂夫が不満気に霊幻の手を見る。自分の手首を掴んでいる手をじっと。
あれから何度か思い出してしまう、霊幻の手の感触。嫌いでは無かった。
「………」
少しして、茂夫が霊幻の腕を空いてる手で掴んだ。
「なんだ?」
まだ不満なのか?それとも本気で怒ったか?と振り返った霊幻の視線が探る。茂夫は霊幻の手を自分の手首から離すと、その手を自分の手と繋ぎ直した。そして
「行きましょう。」
と満足して霊幻を見た。
「お、お前なにやってんだよ……」
茂夫の行動が予想外過ぎたのか、珍しく素で照れて困惑する霊幻を目の前で見た茂夫は胸に何かが刺さる。
「し、師匠…なんて顔してるんですか…」
「お前こそ顔真っ赤じゃねーか。移るからやめろ!」
「師匠のが移ったんですよ。」
と二人で照れながら言い合うも、気付くまで手は繋いだままだった。



【相談所で倒れた日】

「エクボ。もしかしてモブは俺と同じ呪いに掛かってるのか?」
眠っている茂夫を見守りながら霊幻が言う。
「…もしそうだったらどうするつもりだ。」
「決まってんだろ、弟子がピンチなら駆け付けるのが師匠ってもんだ。」
霊幻の目を見たエクボはため息をつく。
「どうやって入るってんだよ。また俺様頼みかよ。まだあの時のツケも払ってねーだろお前。」
と呆れるエクボを、霊幻は真剣に見た。目が、そうなのか?と訴えている。
「安心しろ。シゲオのは別件だ。それにシゲオなら大丈夫だよ。お前の出番はねぇ。」
だから自分の仕事してろ。とエクボが言う。そうか。と霊幻は納得する。
「…霊幻、お前はあの時、どうやってシゲオの小指を守ったんだ?」
霊幻は最後の最後で失敗してしまった。エクボは見届けることなく夢から弾き出されてしまったので、何故茂夫の指が無事に今も付いているのか知らなかった。
「代わりを差し出したからだよ。」
「…どこを。」
「体じゃない。内臓でもない。形のないものだ。幸い、要らなかったしな。ラッキーだった。」
形ではないもの。記憶とか感情だろうか。しかしエクボが知る限り記憶も感情も変化はないように見える。昔の思い出だろうか。よくそれで取引してくれたものだ。
「まぁ要らないもんだったなら、本当にラッキーだったな。お前相変わらず悪運強いよな。」
と笑うエクボに、霊幻は少し寂しげに笑った。
(確かに不要だから助かったんだが、無くなると寂しいもんなんだよな。)
と、悪夢に魘される茂夫を見守った。




※師匠が差し出したのは、モブへの恋愛感情。って今決めました。


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