「おい、また窓開けたまま寝てんじゃねェよ。ったく」
もういつ雪が降ってもおかしくない冬に窓を開けたまま、放課後に教室の机に伏せている総悟。俺はコイツをどうも理解しきれねェ。
いつもどこを見ているのか分からなくて、人より何歩も先を歩いていく。隣に追いつこうと思っても、総悟は俺達とレールを違えた。
いつからだ。コイツが近藤さんと同じレールを歩まなくなったのは。
――ガラガラガラ
教室のドアが開かれ風が廊下へと吹き抜ける。開いたドアの前に立っているのは、春にやって来た留学生。
「おいマヨ、サドまたそんなトコに寝かしたらまた風邪ひくアルヨ。バカでも風邪はひくアルからな」
そう言いながら自分が巻いてたマフラーをはずし、そいつは総悟にマフラーをそっとかける。
いつも喧嘩ばかりで、二人がまともな会話をしているのも聞いた事もない。
だから、この行動で俺は確信をした。
「お前、気づいてんじゃねェのか?総悟の気持」
――バンッ
「何の事か、サッパリね」
叩かれた机は見事に真っ二つ。どうもコイツはそれほど先の言葉を聞きたくねェらしい。
分かっているから聞きたくないのか、言葉の意味も分からずに意味を知る事から逃げているのか。
どっちにしろ俺はこの女が好かねェな。
「そこのバカが起きたら言っとけヨ。"素敵な美女がそのマフラーはあげるアルって言ってたぞ"ってな」
俺はこういう回りくどい素直じゃない女が大っ嫌ェなんだ。
「ああ。その通り伝えといてやる」
それでもコイツが総悟の想っている相手なんだとしたら、俺はいらねぇ事をせず、コイツ等の流れに身を任せておけばいい。
そういうのは構わねェ。
――ガラガラガラ
俺が窓を閉じると同時に、教室はまた俺と総悟の二人に戻る。
「わりィ、総悟」
確実に余計な一言を言ってしまった事に変わりはねェ。頭をかきながら総悟を見ていると、モゾモゾと動き出す。
「人の恋路にチャチャいれないでくだせェよ、土方さん」
顔を上げた総悟はどこか吹っ切れた表情をしていて、俺はうまく反応が仕切れなかった。
「ど、どの辺りから起きてたんだよ!テメェ、狸寝入り何て汚ェ真似してんじゃねェよっ」
立ち上がり俺が立つ窓の前へと来る総悟。隣には立つが、やっぱりコイツは違うレールを進んでる。
せっかく閉めた窓を総悟はまた窓を開け、表情を俺に見せない様に背を向ける。
「コイツをかけてもらった所くらいからですかねィ。ホント余計なお世話ですよ」
自分の肩から取ったマフラーを力強く握り、総悟はあっけらかんと俺を見て言った。
「伝えてもらえますかィ?このマフラーの主からの言葉」
そっくりそのまま伝えてやるよ。時間がねェんだろ。
「"素敵な美女がそのマフラーはあげるアルって言ってたぞ"」
少し口の端をつり上げて笑った総悟を後ろにし、俺は教室のドアに手をかける。
「俺はただ知って欲しいだけだ。時間ねェんだろ?」
ドアを閉めた後の様子は分からなかったが、今総悟を見る勇気が俺にはなかった。
何で俺が泣きそうになってんだ?あんな自分勝手な野郎でも、いざ転校するとなったら寂しいのか。
その転校が明日に迫っているとなったら、寂しいのか。
3へ続く。