「馬鹿になんてしていないさ。15才の頃、なんて私でさえ子供だったよ、自分が子供であるという、その事実を認められない程にはね」


――夜が怖いのなら心を開いて すべてを壊してあげるから 君のために――


「え、雨…?冗談じゃねぇ…」

ただでさえ収穫の無かった旅先から、それでも漸く今朝になってこの中央に戻ってきた。
馴染みの宿に腰を落ち着け、全く筆の進まない報告書を半日がかりででっち上げ、弟に部屋を追い出される頃にはもう日が翳り始める時間だった。
「ちゃんと司令部に顔出して、みんなに挨拶して。僕はウィンリィを駅まで送ってくるからね!」

現在の目的…弟の身体と、それから自分の手足を取り戻す事についての研究には余念のない少年は、しかしそれ以外の事柄には殊更無頓着で。
当然、急な天候の変化を予測して傘を持ち歩く、なんて事はしない。
さらに悪い事に今回の旅先で、少し酷い目に怪我をしてしまった。報告書の遅れについてはそのせいにしてしまってもいい程の。
…勿論原因は余計な揉め事に首を突っ込んだからで、自業自得なのだが。機械鎧も痛めてしまい、幼馴染に出張修理を依頼する始末だった。
相変わらず機械鎧の扱いについての小言を、それこそ今の雨のように降らされながら、それでも彼女はランチの後、お茶の時間を待たずしてすっかり修理してしまった。
少年の専属機械鎧整備師は、少々口煩いが、それも家族同然に育った幼馴染として自分達兄弟を心配しての事だし、なにより整備師としての腕は確かだ。

機械鎧は修理さえすればいい、しかし怪我については自然に治るまでどうしようもない。
こんな状態をあの嫌味な大人に見られたら、また何を言われるかわかったものじゃない。せめてもう少し怪我が治るまで報告を引き延ばせられたら…
そう思ってわざと中央に戻るまで報告書を書かずにいたのに、気の効く手際のいい弟は、旅先で汽車に乗る前にはもう宿を取り、幼馴染に出張を頼んでいて。
幼馴染とは駅で落ち合い、宿に着いたら着いたで人心地つく間も与えず、報告書の制作を急かしたのだった。
さすが良くできた弟だ、素晴らしく効率がいい、と手放しで褒め称えた事だろう…こんな時でなければ。

夕闇の中、司令部に向かう足は重い。怪我は治り切らずまだ覚束無い足元で、おまけに雨に打たれすっかり濡れそぼり、これじゃまるで…

――これじゃまるで、自分は可哀想なこどもだと、全身で表現しているようなものだ。


話題:二次創作文