15才@の続きです。

…………………………

最悪だ。

このまま就業時間を過ぎて、あいつが家に帰ってしまえば。司令部に居なければ…
宿に戻って、今日は会えなかったよ、と言ってしまえば。それでアルも納得すると思った。
時間を稼ごうと古本屋の軒先を覗いたり、市場で買い食いしたり…
そろそろ頃合いかと、果実店のオレンジの籠から視線を上げたその時。

「鋼の?奇遇だな…こんなところで」
視線の先にいたのは今一番会いたくなかった相手で。

「あんたでもこんなとこで買い物したりすんだ?なんか似合わねーな」
すぐに気を取り直したものの、予測しなかった出来事に一瞬、間抜けな面で動けなくなってしまった。
明らかに動揺した。情けない…この俺が!なにより、こんな状態を見られるとは不覚だ。
頭の先から足の踵まで、満遍なくすっかり雨に濡れた身体、怪我…は上手く誤魔化せるか。自信は無いけど。

「今日は夜勤明けで昼から休みでね。ゆっくり過ごして…それで久しぶりに料理でもしてみようかと、思い付いてね」
―似合わない!!まあこいつなら何事もソツ無く熟しそうではあるが。って、そもそも昼から司令部に居なかったんじゃ俺のやってた時間稼ぎは全く無駄だったと言う事か。

「なんだよ、せっかく…」司令部に、と言いかけて口をつぐんだ。
今ここで報告書を渡してしまって、それでボロが出る前にとっとと宿に帰る事もできるだろう。
でも、それじゃあなぜ真っ直ぐ司令部に向かわなかったのか、こんな所に居たのかが説明できない。
無駄な言葉は余計ややこしい事態を招きかねない。だから…俺は目を瞑り。

「…せっかく、内緒で帰ってきてびっくりさせてやろうと思ってたのに」

そう言って、ゆっくり目を開きながら必要以上に上目遣いで見つめてやった…どうだ。
年上の俺の恋人は、その細い目を見開くと、ぱっと頬を染めた。成功だ。

「…驚いた、嬉しいよエドワード。では、サプライズのお礼に、今から我が家で食事でも、どうだい?」
しまった。この展開はマズい。しかしあんな事を言った手前、断れる筈もなく。
気付いたら傘に招き入れられ、嬉しそうな顔で相合い傘だな、と耳打ちしてきた。
ばか、恥ずかしい、黙って歩け、なんて会話ではぐらかしつつ、怪我がバレないよう慎重に歩を進めた。

それにしても…連絡も無しに帰って来た事を問い詰めそうなものなのに、何も訊かれない。
明らかに雨に打たれ濡らされるがままになっていた姿の事さえも。
俺を必要以上に子供扱いしてくるこの大人は、そんな些細な事をとても気にするのだ、いつもなら。

どうして今日は…


話題:二次創作文