じりじりと照りつける太陽から逃がれるように、ノックもせずに執務室に飛び込んできた少年はソファーに倒れ込んだ。


――理解する 時間も涙も 何処へ行くのだろう――


「あっちー!」
「挨拶ぐらいしたまえよ、鋼の」

3ヶ月ぶりの逢瀬は、抱擁も憚られ――この季節、太陽に当たってきたばかりの彼のその鋼の手足は非常に熱を持っていた――執務机からソファーの少年を一瞥すると、また手元の書類に目を走らせた。

「あ、さっきここ来る途中に見たんだけど」

ふいに話しかけられて書類から目を上げる。少年の顔は窓の方を向いていて、それから私の視線に気付いて向き直った。

「咲いたね、ひまわり」
「よくわかったね、君が前に来た時にはまだ芽が出たばかりだっただろう」


話しながら立ち上がり、少年の見ていた窓を開ける。心地よい風が吹き込み、その風に揺られるひまわりの花が見えた。
くるりと向き直り窓に背を向け、桟に軽く腰掛けるように凭れ掛かる。

「リゼンブールにも咲いてたからさ、それに俺ひまわりって好きだよ」
「意外だな、君が花を好きだなんて…ああ、そうか、」
「ストップ!別に背丈が大きいからじゃないからな!!」
「わかっているよ。それに私もひまわりは好きだからね」

君に似ているから、なんて言ったらきっと気障だと言われて、嫌そうな顔で照れ隠しをするのだろうけど。
私の言葉にふうんと気のない相槌を打ちながら、相変わらず目線は私を通り越してひまわりを向いたまま。


「太陽の方を向いてるのがさ、前向きって感じでなんかいいじゃん」

まるで憧れのようにひまわりに向けられた視線。科学者である彼が口にするには意外すぎる言葉に、

「まるで君のようだな」

言うつもりのなかった言葉が口を突いて出た。
その言葉に驚いたのか、弾かれたように私の顔を見上げると、目が合った途端にぱっと頬を赤く染めて目を泳がせた。
漸く私の話に興味を向けられた、そんな彼の様子に言葉を続ける。

「真夏の日差しに負けない強さ、そして目線はいつも私を通り越して遥か彼方だ」

目を泳がせながらも、時折ちらりと私の顔を伺ってくる様子が愛おしい。

「だからこの部屋の窓から見えるようにね、彼処にひまわりを植えたんだ。会えない間にも君の事を想えるように」
「バッ…カじゃねぇの…」
すっかり俯いてしまったその顔は見えないけど、しかし髪の間から覗くその小さな耳は真っ赤に染まって。
その強さ、ひたむきさ、美しさ。風に揺れる黄金色の花と金髪とを重ね合わせる。


顔を上げないままの恋人の隣に腰掛けると、そっと囁きかける。

「君がひまわりなら、じゃあ、私は太陽になろう」

真っ赤なままの顔をそれでも少し上げたので、苦笑しながら頬に触れるとゆっくり瞼が落とされた。


話題:二次創作文