話題:二次創作小説


コレも前サイトでうpってた奴。


ちょこちょこ手直しして再うp。


元ネタは前回と同じく『SHUFFLE!』。ギャルゲに抵抗ない方だけどーぞ。





「んぅ…」


穏やかな寝息を立てる部屋の主、土見稟。


夏休みも中盤を追えたある日、いつもと変わらぬ光景が此処芙蓉家の一室にあった。


「稟くん、起きてますか?」


これまたいつもと変わらぬ時間に響いた澄んだ声と控えめなノック。その後、返事が無いのを確認し部屋に入る彼女の名は芙蓉楓。


「稟くん、起きて下さい」

「ん…んん…」

ユサユサと身体を揺するのだが、爆睡モードから切り替わる気配の無い稟は軽い身動ぎをするだけで起きる気配はない。


「はぅ…稟くんの寝顔…何回見ても飽きないですぅ…」


…起こすどころかうっとりと夢見心地な表情になる楓。端から見れば危ない人である。


因みに寝顔の覗き見も日課の内である事は彼女だけの秘密。


「――はっ!…またやってしまいました…」


雑念を振り払うようにふるふると頭を振り、再度布団に手を掛ける。ここまでの所要時間は約10分。


――それでも口元が弛んでいるのはお約束。


「稟くん、起きてくださ…い…?」


再度布団に手を掛ける楓――此処迄はいつもと変わらぬ日常の筈だった。


身体を揺らそうとした瞬間、楓がベッドから何か紐のようなものが出ているのを見つける迄は。


「…何でしょう…?」


解れた糸と言うには色も太さも違いすぎる『それ』を目にした楓はまたも布団から手を離し、その怪しげな紐に手を掛ける。


「…これは…?」


手にしてみて分かったが、紐とはまた違う感触だった。しかしそれが何なのかはさっぱり分からない。


「う〜ん……えいっ」


小さな掛け声とともに少しだけ引っ張ってみる。


「ん…んぁ…」


直後、響いた苦悶の声。


「――っ!」


――刹那、彼女のバックに電撃が走った。


逆行の為表情は窺えないが、ゴクリと息を呑んだ後…彼女はもう一度紐を握る。今度はもう少し引っ張る力を籠めて。


――グイッ、グイッ


「ぁ…ぅあ…」

「〜〜〜っ!」


――彼女は悶えた。自身の身体を抱き締めながら、それはもうひたすらに悶え狂った。


目にした人は、間違いなく非常に危ない人物だと百人中百人は答えるだろう。


しかし、ベッドから飛び出た紐を引っ張る度に漏れる稟の艶やかな声。


心なしか、表情すらも艶やかに見える。


稟の事を思う彼女にとって、これ程心を昂ぶらせる事など滅多に無いだろう。多少の――かどうかは甚だ疑問だが――壊れ加減は目を瞑ろうではないか。


そして一通り悶え狂った彼女は、吹き出しそうになる鼻血を押さえつつ、抑えきれない自身の欲望を満たすべく再度垂れ下がった紐へと手を伸ばす。


――どう見ても幼女に手を出そうとしている中年男性にしか見えない人は少なくないだろう。


そんな第三者の目線などお構いなしに彼女は腕に紐を引く力を加え続ける。


――グイッ、グイッ、


「く…あぁ…」

「はぁ…はぁ」


――グイッ、グイッ、グイッ、

「…ぃ…ぁ…」

「はぁっ…はぁっ…!」


――目を血走らせているその姿は、もう立派に変態の域である。


だがしかし、そんな年端もいかない純粋な少年少女が見たらトラウマにもなりかねない光景は、突如として終わりを迎える。


――グイッ、…ズルッ!

「はぁっ、はぁっ……あっ!」


一心不乱に引っ張り続けられた紐は途端に抵抗力を無くし、突然の事にバランスを崩した彼女は尻餅を付きそうになる。


「はわっ!…っとと……あ、危なかったです…って、これ…」


幸いにも倒れずに態勢を直した彼女の前に、幸か不幸か自身の手に絡まって正体を現した『それ』が眼前へと晒されていた。


脳内が『それ』を何なのか把握するまで数秒、そして彼女の中で結論が出た瞬間――






「゚ ゚ ( д )」(←注;楓)


飛び出さんばかりに見開かれた目、あんぐりと開けっぱなしにされた口のまま、彼女は自己の時間を止めるという魔法ですらない正体不明の能力を発動した。












「んぅ…」

「――はっ!」


放っておけば永遠に動きそうもなかった彼女の時を動かしたのは、傍らで眠る愛すべき男性の漏らした声だった。


「そ、そうでしたっ、固まってる場合じゃないんでしたっ!」


軽く頬を叩いて気合いを入れ、しっかりと握られた『それ』を再度目前へと持ってくる。


近付けてみたり、回してみたり、引っ張ってみるが、やはり先程時を止める前に見た瞬間に思い浮べたものと寸分の狂いはなかった。


「これはどう見ても…」


『それ』の両端を持ち、左右に引っ張りながら声を漏らす。


眼前にあるのは男性のベッドから出てくる筈の無いピンク色の『それ』。


「下着、ですよね…女性用の」


――まぁぶっちゃけると、胸元に付ける『ブラ』だったりする。








〜Dive in delusion〜
-止まらない妄想という名の暴走-





「で、何でボクたちは呼び出されたのか分からないんだけど」


楓がピンク色の物体の正体を確認してから十分も経たない内に、芙蓉家のリビングには亜沙、シア、ネリネが所在なさげに座っていた。


三人はただ楓から「大変なんですっ!」とだけ受話器越しに聞かされ、肝心の主語を聞かされぬまま呼び出されたのだ。


因みに他のメンバーは既に外出中であった為、此処には居ない。


「そうですね、では本題に入りましょう」


先程の変態っぷりは何処へやら、いつになく真剣な表情になる芙蓉楓16才。


――どうでもいい話だが、18歳未満お断わりの品物に18歳未満が出ているのはどうなのだろうか。本当にどうでもいい話なのだが。


――閑話休題。


楓の表情から、今から話すであろう内容が余程の事であると察した三人も顔を引き締める。


「実は…」


ゴクリ、と誰かの息を呑む音が聞こえる。


「稟くんが…」

「……っ!」


その名が出た瞬間、三人に少なからず衝撃が走る。


彼女達にとっても意中の男性であるその名。


この緊迫した状況下の中、その名を出した瞬間目を逸らし先を言い淀む少女が、彼の身に何かあったのかと嫌な予感を彷彿とさせる。


――しかし悲しいかな、三人の視線を一身に受ける少女の暴走は、未だ止まってはいなかった。


「稟くんが、実は女の子だったんですっ!」


――否、暴走は止まる事を知らない故に暴走と言う。








「……」

「……」

「……」

「……は?」


リビングの静寂を破ったのは、頭に疑問符を浮かべまくりの亜沙だった。


「ですから、稟くんは実は女の子だったんですよ」

「だから、それが意味分かんないんだってば」


事情を全く知らない亜沙が――知っていても反応は同じだと思うが――理解不能な事を口にする楓に説明するように促す。


「えっとですね、少し前稟くんを起こそうと部屋に入ったんです」

「うんうん」

「そうしたら、稟くんが女の子になって…」


…この瞬間亜沙は悟った。


もう駄目だこの子、と。







「つまり、この家の物じゃないブラが稟ちゃんのベッドの中から出てきた、と」

「はい、それはもう可愛らしいピンク色でそれを稟くんが着けていたかと思うと私物凄く興奮してしまって」

「うん、真剣な顔はいいんだけど取り敢えずそのとめどなく流れ出てる鼻血を止めてから喋ってくれる?」


楓を痛い子と認識した瞬間から、ツッコミに温かみなどはない。


「あと二人も頭の中で合成写真を作るような事をしないの。涎垂れてるから」


先程から黙り込んでいた王女様二人は、実は好きな人が女の子でしたーなどと言われてショックを受けているかと思いきや、二人揃って口元が緩みきっており、性犯罪者の顔になっていた。


どうやらこの空間にまともな人間は亜沙一人だけらしい。


はぁ…と、自分の立ち位置に些かの不満を感じつつ、投げ遣りに話し出す。


「…でもそれだけじゃ稟ちゃんが女の子になったって証拠にはなってないんじゃない?実は稟ちゃんが自分の欲求を満たす為に何処かから盗んできた変態さんなのかも知れな――」

「「「稟くん(さま)はそんな人じゃありませんっ!」」」

「――〜〜っ!」


見事に大声をハモらせる変態…基、ラバーズ一同。


三方、しかも両隣からは超至近距離で怒声が飛んできた為、亜沙は脳に甚大なダメージを受ける。


「うぅ……頭がぁぁ…」


激しい耳鳴りに頭を抱え踞る彼女の為に一応言っておくが、先程の言動はあくまで例え話なので彼女自身もそう思っているわけではない。


「でも、もしそうだとしたら納得いく事がいくつかあります」


――歯止めを失った暴走機関車は、二人の王女とともに勢いを増していく。


(注:ここからは暴走具合を表現するのが困難なので音声のみでお届けします。決して面倒臭いわけじゃないんだからねっ!)


「私たちがいくら気を引こうとしてもいつも空振りに終わってしまいますし…」

「そうだよね〜…確かに稟くんが女の子だったらやっぱり男のk……はっ!…ま、まさか…」

「恐らく思っている通りです。毎朝私達を庇うような素振りを見せては毎日抱きついている…」

「み、緑葉くんが好きだったなんて……嘘…誰か嘘だと言ってーーーーっ!」

「強敵がこんな意外な所に潜んでいたとは思いもよりませんでしたが、私も負けられません。急いで性転換の魔法を習得しなければ…」

「稟くんが女の子稟くんが女の子稟くんが女の子…………はぅぅっ!萌えますぅ〜〜!」










「うわぁ……」


やっと耳鳴りから解放された亜沙は、現実に地獄絵図というものを目の当たりにする。


泣きながら呪咀っぽいものを唱えている者、なんか魔力的なものを溜めすぎて体が発光している者、鼻血を出しながら床を暴れ回っている者。


最早彼女には引きつった笑みを浮かべるしかなかった。


「…?…何これ?」


いつの間にか自分の足元に何かが落ちている事に気付き、ひょいと拾い上げる。


「あ"」


落ちていたのは、恐らくその辺で暴れ回っている少女が落としたであろう、今回の事件の元凶でもあるピンクのブラだった。


それをみた瞬間、亜沙は形容しがたい声を上げながら全てを悟った。


「これって――」