話題:二次創作小説
ありえない設定の続きです。
追記へどうぞ!
「どうして今なんですか! 帰れと言って欲しい時は何も言ってくれなかったのに、どうして今……! 」
涙がこぼれる。誰に対してか、何に対しての涙か……自分自身に対してなのかかもしれない。
分かっていた。万斉さんが私の選ぶべき答えを選べる状況を作ってくれた事。私がその選択をしたくても、選べないと思って背中を押してくれた事。
「万斉さん、私どうしたら……」
次の日、いつの間にか泣き疲れて寝てしまった私は、布団の中で寝ていて、枕元にはお通ちゃんのCDと一本の煙管が置かれていた。
「……! 」
寝ぼけていた頭をフル回転させ、全ての部屋を探すが、生活をしていた匂いも、気配も、また子ちゃんも、万斉さんも、晋助さんもいなくなっていて、私が寝ていた布団と枕元のCDと煙管と私だけが部屋に残されていた。
「……まだ……お礼も言ってない。お別れも、次の……会う約束も、何も! 」
CDの入っている袋に煙管を入れ、私は勢い良く部屋を出ようと駆け出す。今ならまだ、間に合うかもしれない。江戸を出るなら向かう先はターミナルに違いないし、きっときっと追いつけ
――ガッ
「いっだだだだだだだだ! 指! 指! 」
勢い良く戸を開けると戸の向こう側にいる誰かの指を挟んだらしく、懐かしい叫び声が聞こえる。ほんの数日離れただけで、こんなに懐かしく感じる。
「……どうして」
「盗んだもんを返すんだと」
毎日聞いていた声なのに、何年ぶりかに聞くような気持ちで、心地よくて。私は次の言葉が出なかった。
戸をゆっくり開くとめんどくさそうに頭をかく銀さんは、私と目を合わそうとはせず、何か言葉を探している様にもみえる。
「万事屋に電話が来てよ、鼻つまんでたのか機械で音声変えてたのかしんねーけど、”盗んだ者は返すでござる”とかふざけた電話が入った訳よ」
万斉さんだ。
銀さんは多分気を使って独り言を続け、電話の相手の話し方がどうだとか言っていた。もしかしたら心当たりがあるのかと思ったけれど、名前を名乗らなかったという事は、きっと銀さんに自分達の事を知られたくなかったから。
「違いますよ。私は拾われたんです……黒ネコに」
銀さんが固まるのが分かって私は笑いかける。
「ごめんなさい。迷惑かけて」
「……! そうだ! お前ェ四日も何してんだ! 年頃の娘が仕事ほっぽりだして、連絡もよこさねーでやっていいことじゃねぇぞ! 」
どれだけ心配したと思ってんだ! と銀さんは言葉を続け、さっきまで私に気を使ってたのが嘘のようにいつもの銀さんになる。
自然に歩き始める銀さんにつられて私も歩く。彼の隣を静かに、謝りながら銀さんの話を聞いて。
「で、そのネコの名前はぁ! 」
「しっ……チビ助」
「は? いや、今”し”っつたよね。俺ちゃんと聞いてっから。誤魔化されないから! 」
「いいえ。チビ助って名前の黒ネコですよ」
煙管を取り出して眺めながら言うと、銀さんは思い出したように煙管を指さした。
次がラストです!